院長コラム

褥婦さんに対する人参養栄湯の効果

妊婦さんは血液の希釈や鉄需要の増加などにより、鉄欠乏性貧血になりやすいことが知られています。そのため、妊娠中から貧血の予防・治療を積極的に行うことも多いのですが、分娩時の出血などが原因で、産後に貧血を認める方は少なくありません。
産後の貧血に対し、鉄剤投与を行うことが一般的ですが、嘔気・胃痛などの副作用のため、鉄剤を服用することができない方もいらっしゃいます。
当院では、分娩時に出血が多かった方や、産後の貧血がみられる方に、漢方薬「人参養栄湯(ニンジニョウエイトウ)」を積極的に使用しています。
本日は、クラシエ薬品株式会社の資料などを参考に、褥婦さんに対する人参養栄湯の効果について説明します。

 

人参養栄湯の効能効果

人参養栄湯は、病後の体力低下・疲労倦怠・食欲不振・ねあせ・手足の冷え・貧血に対して用いられます。
一般的に高齢者の虚弱(フレイル)がよい適応となりますが、お産による心身の疲労が強い方で、特に冷え性の方には、明らかな貧血がなくても、当院では処方することが少なくありません。

 

人参養栄湯と鉄剤の効果の比較

  • ヘモグロビン(Hb)値

Hb値は貧血の指標であり、正常は12g/dl以上とされています。
ある調査では、平均10g/dlの貧血が認められた褥婦さんに人参養栄湯を4週間投与したグループと、鉄剤を4週間投与したグループを比較したところ、どちらも約2.5g/dl増加し、平均12g/dl前後となっていたそうです。
つまり、人参養栄湯による貧血改善効果は、鉄剤に引けを取らないと言えます。

 

  • 疲労感

同様に疲労感に関する調査では、人参養栄湯服用グループでは疲労感テストの項目が改善しましたが、鉄剤服用グループではほとんど改善することはなかったそうです。
つまり、産後の疲労感は貧血だけが原因ではなく、様々な要因が考えられるため、多くの生薬の効用が期待できる人参養栄湯の服用が有用です。

 

  • 産後うつ

産後うつの原因として、胎盤娩出に伴う女性ホルモンの急激な変化や、サポートの有無といった環境因子など、様々な要因が指摘されていますが、貧血もその一つです。
エジンバラ産後うつ病質問票(EPDS:9点以上で産後うつ病の加可能性が高い)を用いた研究では、鉄剤服用の褥婦さんと比べて、人参養栄湯服用の褥婦さんの方がEPDSの9点以上の割合が少なかったそうです。
つまり、単に鉄剤で貧血を改善させるより、人参養栄湯を服用した方が、産後うつ病の予防になるかもしれません。

 

出産という大仕事を終えた褥婦さんは、疲労困憊の状態です。
当院では産後2日目の血液検査で強い貧血を認めた場合は、鉄剤と人参養栄湯を一緒に処方しています。
また、血液検査で貧血がみられない褥婦さんでも、疲労感・ふらつきといった自覚症状がある方には、積極的に人参養栄湯を処方するようにしています。