院長コラム

子宮内膜症のホルモン療法 ~偽妊娠療法と偽閉経療法~

子宮内膜症とは子宮内膜組織が子宮の内側以外の場所(卵巣や腹膜など)に発生し、増殖や出血、周辺組織との癒着など、様々な悪さをする病気です。
通常、エストロゲンという女性ホルモンにより子宮内膜組織は増殖し、排卵後に分泌されるホルモンのプロゲステロンによりその増殖が抑えられます。
エストロゲンは“炎”、プロゲステロンは“氷”に例えられることがありますが、子宮内膜症はお腹の中で炎が暴走している状態と言えるかもしれません。
今回は、その炎の勢いを食い止め、鎮火させるホルモン療法について説明します。

 

見かけ上、妊娠状態にする“偽妊娠療法”

妊娠中はエストロゲンとプロゲステロンとがバランスを保っており、子宮内膜組織の増殖が抑えられている状態です。
この状態を人工的に作るため、炎を氷で鎮火させる、つまりプロゲステロン成分の薬剤を用いてエストロゲンの作用を抑制する治療を“偽妊娠療法”といいます。
代表的な薬剤として、「ジエノゲスト錠(ディナゲスト錠)」があります。また、低用量ピル(OC)、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)も、子宮内膜症に伴う月経困難症に対する治療効果は高く、子宮内膜症の予防も期待できます。
尚、OC・LEPにはエストロゲン成分が少量含まれていますが、子宮内膜症対策としてはプロゲステロンの作用が主体となります。

 

あえて閉経状態にする“偽閉経療法”

偽妊娠療法は比較的副作用が少なく、長期間使用できるため、子宮内膜症に対するホルモン療法として第一選択とされています。
ただし、子宮の内側以外に存在する子宮内膜組織の中には、プロゲステロンに対して抵抗する勢力があることが知られるようになりました。つまり、氷で鎮火することができない炎が存在するということです。
そのため、この“抵抗勢力”と対決するには、最初から炎自体を小さくさせる、言い換えればエストロゲン分泌を減少させる治療に切り替える必要があります。
皆さんが、エストロゲンが少ない状態として真っ先に頭に浮かぶのは“閉経”ではないでしょうか。その通りです。人工的に卵巣機能を抑えて、エストロゲン分泌を減少させる治療を“偽閉経療法”と言います。
この治療には、内服薬の「レルミナ錠」、皮下注射剤の「リュープロレリン注」などを用います。
ただし、皆さんがご心配の通り、閉経後女性にみられるような更年期障害や骨密度低下といった副作用があります。特に、長期治療により骨粗しょう症のリスクが高まるため、年に6か月までしか偽閉経療法を行うことができません。

 

偽妊娠療法も偽閉経療法も、それぞれメリットデメリットがあります。
また、年齢、自覚症状、妊娠希望の有無などによっても、その時の最善な治療法が変わってきます。
子宮内膜症の治療に正解はありませんが、当院ではお一人おひとりに合った治療法を模索し、提案させて頂いております。