院長コラム

更年期女性と糖尿病

11月14日は、インスリンを発見したカナダ人医師の誕生日にちなみ、「国際糖尿病デー」となっています。
今回は、「女性医学ガイドブック更年期医療編2019年度版」(日本女性医学学会編)、「ホルモン補充療法ガイドライン2017年度版」(日本産科婦人科学会・日本女性医学学会編)などを参考に、更年期女性と糖尿病について説明します。

 

閉経が糖尿病に与える影響

平成28年のわが国の調査では、「糖尿病が疑われる」と「可能性が高い」を合わせた女性の割合が、30代で約1.4%であるのに対し、40代では約7%、50代では約16%、60代では約27%、70代以上では約37%にまで上り、40~50代以降に急増することが示されました。
また、ヨーロッパの研究では、40歳未満で閉経した早発卵巣不全女性の2型糖尿病の発症リスクは、50~54歳で閉経した女性に比べて有意に高かった、とのことです。
これらの研究結果から、閉経などによりエストロゲンが低下すると、糖尿病が発症しやすいと考えられるため、更年期女性は糖尿病予防に心がける必要があります。

 

ホルモン補充療法(HRT)が糖尿病に与える影響

エストロゲンを補充するHRTの糖代謝への影響を調べた研究によると、HRTを受けた群は糖尿病の有無にかかわらず、インスリン抵抗性が有意に改善(血糖が下がりやすい)とのことです。
また、HRTによって糖尿病女性では空腹時血糖・空腹時インスリン値が有意に低下し、非糖尿病女性では内臓脂肪が有意に減少し、糖尿病発症のリスクが低下することが示されました。
「ホルモン補充療法ガイドライン2017年度版」では、「経口HRTは血糖とインスリンを低下させ、インスリンを低下させてインスリン抵抗性を改善させる」「経口HRTは糖尿病の新規発症を抑制する」と明示しています。
ただし、あくまでもHRTは更年期障害や閉経後骨粗しょう症の治療法であって、糖尿病の治療や発症予防を目的とした使用は推奨されていない旨、ご了解下さい。

 

糖尿病を有する女性へのHRT

動脈硬化性疾患がなく、良好に血糖がコントロールされている場合は、HRTを行うことで更なる血糖コントロールの一助になる可能性があります。
ただし、糖尿病患者さんの場合、動脈硬化性疾患など重篤な合併症をお持ちの方も少なくありません。
「コントロール不良な糖尿病」はHRTの「慎重投与症例」となっており、HRT施行の可否については、糖尿病専門医とご相談頂くのがいいでしょう。

 

今は糖尿病でない更年期前後の女性も、年々糖尿病発症のリスクが増加するため、定期的に健康診断を受けることをお勧めします。
また、HRTを行っている方で、糖尿病の検査で異常を指摘された場合は、早めに糖尿病専門医を受診しましょう。