院長コラム

挙児希望の有無と子宮内膜症の治療方針

子宮内膜症が進行すると、卵巣チョコレート嚢胞や骨盤内癒着などの影響で、卵管の通過障害が起こり、精子・卵子・受精卵が卵管内をスムーズに通ることが出来なくなります。また、子宮内膜症が軽症の場合でも、様々な炎症物質の影響で妊娠がしづらくなることが知られています。
このように、子宮内膜症と妊娠とは深い関連があり、挙児希望の有無によって子宮内膜症の治療方針が変わっていきます。
今回は「産婦人科診療ガイドライン婦人科外来編2020」(日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会編)、「産婦人科navi vol.1(2020年5月発行)」(富士製薬工業株式会社発行)などを参考に、「すぐに妊娠したい方」「将来的に挙児の希望がある方」「この先挙児希望のない方」に分けて、子宮内膜症の治療方針について説明します。

 

 

「すぐに妊娠したい方」

不妊症に対する治療方針に影響を及ぼす因子として、患者さんのご年齢、子宮内膜症の進行期、卵巣チョコレート嚢胞の大きさなどがあります。

一般的に子宮内膜症が軽症で、明らかな卵巣チョコレート嚢胞が見られない場合は、一般不妊治療であるタイミング指導、排卵誘発、人工授精へ段階的にステップアップし、妊娠に至らなければ腹腔鏡下手術(癒着剥離、病変部の焼灼、チョコレート嚢胞摘出など)あるいは生殖補助医療(ART:体外授精、顕微受精、胚移植など)へ移ります。

子宮内膜症が重症で、チョコレート嚢胞が見られた35歳以上の場合、あるいは30歳以下でも両側卵巣にチョコレート嚢胞が見られた場合は、一般不妊治療を省略して、初めからARTまたは腹腔鏡下手術を行うことがあります。

これら以外の方は、個々の状況に合わせて治療方針が決定されます。

尚、手術療法のデメリットとして、一部の正常卵巣組織切除が避けられないことや、電気メスの熱による正常卵巣組織へのダメージなど、卵巣予備能力の低下が挙げられます。そのため、手術を頻回に行うことは避ける方向にあります。

 

 

「将来的に挙児の希望がある方」

妊娠を希望する時期まで、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤(ヤーズフレックス錠・ジェミーナ錠など)あるいは黄体ホルモン製剤(ディナゲスト錠など)を継続して服用することが勧められています。

薬物療法で症状が改善されず、チョコレート嚢胞の増大が認められる場合には手術療法を行うこともありますが、その場合でも再発予防のため術後に薬物療法を再開します。

 

 

「将来的にも挙児希望がない方」

卵巣チョコレート嚢胞から卵巣がんが発生する頻度は0.7%程度といわれていますが、年齢とともに、また嚢胞の増大とともに悪性化の可能性が高まります。40歳以上で、チョコレート嚢胞が4cm以上になると、悪性である確率が高まり、特に嚢胞の大きさが10cm以上、あるいは急速な増大を認める場合には、卵巣摘出術を行うこともあります。

また、閉経時期に近い方で、チョコレート嚢胞があまり大きくなければ、偽閉経療法(リュープロレリン1.88皮下注など)を行い、自然閉経に逃げ込むこともあります。ただし、原則として6か月までしか使用できないため、副作用である骨密度低下などに十分注意しながら、閉経するまで半年毎に治療を繰り返すことになります。

 

 

積極的な不妊治療や手術療法が望ましい方は、専門施設へ紹介させて頂き、薬物療法による経過観察は当院で対応致します。
術後の薬物療法中の方、閉経への逃げ込み療法ご希望の方は、是非ご受診下さい。