院長コラム

ホルモン補充療法に期待される脂質代謝への効果

脂質代謝には性差があることが知られています。総コレステロール値とLDLコレステロール(悪玉)値は、40歳代までは女性は男性よりも低値ですが、50歳以上では女性の方が高値となります。さらに、更年期以降、心筋梗塞などのリスクも上昇するといわれています。
その理由として、女性ホルモンであるエストロゲンの急激な減少が関与していると考えられています。
一方、エストロゲンを補うホルモン補充療法(HRT)の脂質代謝に対する作用は、使用するエストロゲン製剤の種類や投与方法などにより異なっています。
今回は、「ホルモン補充療法ガイドライン2017年度版」(日本産科婦人科学会・日本女性医学学会編)、「産科と婦人科 2019年12月号 オフィスギネコロジーにおける脂質管理」(診断と治療社)などを参考に、HRTに期待される脂質代謝への効果について、当院で用いている薬剤を中心に説明します。

 

 

経口エストロゲン製剤の効果

現在当院では、経口エストロゲン製剤として
「ジュリナ錠(1錠0.5mg)」を1日1錠0.5mg(低用量)または2錠1.0mg(通常量)を使用しています。ジュリナ錠を8週間投与した試験によると、0.5mgでは変化しませんでしたが、1.0mgではLDLコレステロールを有意に低下させたとの報告がそうです。また、動脈硬化のリスク因子である中性脂肪に関しては、ジュリナ錠では増加させることがないとのことです。

一方、以前HRTで使用されることが多かった結合型エストロゲン「プレマリン錠」は、LDLコレステロールを低下させるといった利点はありますが、中性脂肪の産生を増加させてしまうというデメリットもあります。そのため、当院ではプレマリン錠をHRTとして中高年女性に使用することはほとんどなく、思春期~性成熟期女性に対するホルモン治療で使用しています。

 

 

経皮エストロゲン製剤の効果

経皮エストロゲン製剤には「エストラーナテープ」「ル・エストロジェル」「ディビゲル」の3種類があり、エストロゲンと黄体ホルモンの合剤「メノエイドコンビパッチ」も頻用する経皮ホルモン剤です。

これらの経皮剤は、中性脂肪を変化させないか、むしろ低下させることが知られており、その他、動脈硬化の発生や進行を抑える効果も期待されています。

 

 

HRTはあくまでも更年期障害や閉経後骨粗しょう症の治療を目的としており、動脈硬化の予防のみを目的として用いることはありません。
ただし、「閉経後10年未満の女性に対してHRTを開始すれば、動脈硬化性疾患のリスクを低下させられる可能性が高い」との意見もあります。
これからもHRTの副効用を意識しながら、患者さんにとって最善な更年期医療を提供して参ります。