院長コラム

当院における「芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)」の使い方

産婦人科領域では漢方薬を使用する機会が多く、中でも芍薬甘草湯は汎用される薬剤の一つです。
今回は、当院で使用する主なケースについて説明します。

 

芍薬甘草湯の働き

芍薬甘草湯は、芍薬と甘草という2種類の症薬から成っています。効能・効果は「急激に起こる筋肉のけいれんを伴う疼痛」で、体力・体質にかかわらず広く用いられています。

 

当院で使用する主なケース

1.こむらがえり

こむらがえりとは、運動中や就寝中に起こるふくらはぎのけいれん痛です。
原因としてはカルシウム・カリウム・マグネシウムなどのミネラル不足、運動や睡眠による脱水、冷えによる血行不良などが考えられます。
特に妊婦さんの場合、下肢の負担が増大し、血行不良になりやすいため、こむらがえりに悩む方は少なくありません。
まずは、バランスの取れた食事や水分摂取、入浴などによりこむらがえりを予防することが大切です。
その上で、もしこむらがえりとなってしまった場合は、芍薬甘草湯を1包服用して頂くと多くの場合短時間でけいれんが収まります。

 

2.月経困難症

月経痛の主な原因の一つは、子宮筋の過剰な収縮です。特に、子宮内膜症などの疾患が見られない機能性月経困難症に対する治療として、いかに子宮筋の緊張を和らげるかがポイントになります。
通常は、子宮筋を収縮させる痛み物質(プロスタグランディン)の産生を抑える鎮痛剤を用います。ただし、鎮痛剤の服薬量が増えると、胃炎や胃潰瘍などの副作用をきたすことがあるため、必要最小限に抑えることが望まれます。
そこで、芍薬甘草湯を併用すると、鎮痛剤の服薬回数が抑えられ、副作用を軽減することが期待できます。
当院では、より効果的な服用方法として、予定月経初日の4~5日前から服薬を開始し、月経痛が強い3日目頃までの約7~10日間、継続してお飲み頂くことをお勧めしています。

 

3.切迫早産

妊娠22週から妊娠36週までに子宮が規則的に収縮し、早産の危険性が高くなった状態を切迫早産といいます。
一般的には、子宮筋の収縮を抑制する薬剤(ウテメリン)の内服薬や点滴薬で治療しますが、動悸や手の震えといった副作用が見られることがあります。
そのような場合に芍薬甘草湯を併用すると、ウテメリンの投与量を減らすことができ、副作用が軽減することもあります。

 

上記以外にも腰痛や腸ぜん動亢進に伴う腹痛など、筋肉の緊張が原因の疼痛に対して芍薬甘草湯は効果を発揮します。
芍薬甘草湯のみを長期間連続して服用することはあまりありませんが、比較的早く効果が期待できる屯用薬として大変有用な漢方薬です。