院長コラム

尖圭コンジローマは予防可能な性感染症です

先日、厚生労働省科学研究を基に作成された「女性の健康包括的支援のための診療ガイドブック」が発刊されました。
今回はこのガイドブックを参考に、性感染症の一種である尖圭コンジローマの概要および予防・治療について、当院での対応を交えて説明します。

 

 

尖圭コンジローマとは

性行為を介してヒトパピローマウイルス(HPV)6型および11型に感染することで発症します。女性の場合、外陰部、会陰部に好発し、さらに腟壁、子宮腟部、肛門周囲、直腸にみられる事もあります。
HPVは皮膚や粘膜の接触により、小さな傷から進入し、約3週から8ヵ月の潜伏期間の後、“いぼ状”“鶏冠状”の病変を形成します。発生部位によっては疼痛、痒みを認めることもありますが、ほとんどの場合無症状です。したがって、無自覚のままセックスパートナーに感染させてしまう危険性があります。

 

 

母子感染について

尖圭コンジローマは性行為による感染だけでなく、分娩時に母体から児へ感染する可能性があります。もし、児の呼吸器粘膜にHPVが感染すると、将来的に再発性呼吸器乳頭腫症(JORRP)を発症するかもしれません。
JORRPは喉頭から細気管支に至るまでの気道粘膜に良性乳頭腫を形成する疾患で、重症化すると気道閉塞により致死的となり、治療しても高い再発率に苦慮します。
尖圭コンジローマの母体から生まれた児がJORRPを発症する頻度は145人に1人と報告されており、腟内にコンジローマが認められるケースでは帝王切開となります。また、妊娠中にレーザー蒸散術などによる治療によって病変が消失した場合、経腟分娩児の母児感染リスクが低減するといわれています。

 

 

当院における治療法

○ 外用剤(細胞性免疫応対賦活薬):ベセルナクリーム

ベセルナクリームは外陰部の尖圭コンジローマ治療の第1選択薬であり、患部の免疫力を高めることによりコンジローマを消失させます。一日おきに週三回、寝る前に塗布し、翌日よく洗い流します。最長16週まで治療が可能です。
ただし、妊婦さんは極力使用しない方がいいといわれています。
また、腟内、子宮腟部の尖圭コンジローマは、ベセルナクリームにより重篤な粘膜障害をきたすため、禁忌となっています。

 

○ 外科的切除+レーザー蒸散

当院では、病変部を局所麻酔し、可能な限り切除します。その後、炭酸ガスレーザーを用いた蒸散を行ないます。
ベセルナクリームの効果が不良であった方、再発された方、妊婦さんなどを中心に行なっています。

尚、外用剤にしても、切除・蒸散にしても再発の可能性があります。
また、腟内や肛門に発生した場合は他施設に紹介させて頂く旨、何卒ご了承下さい。

 

 

予防法

○ コンドーム

妊娠を考えない性交の場合、必ず男性にはコンドームを初めから確実に装着してもらいましょう。残念ながら他の性感染症と同様、100%防ぐことはできませんが、少なくとも感染の確率を減らすことは可能です。

 

○ 4価HPVワクチン:ガーダシル

現在わが国で使用可能なHPVワクチンは「サーバリックス」と「ガーダシル」の二種類があります。「サーバリックス」は、子宮頚がんの原因ウイルス16型・18型の2種類のHPVの予防ワクチンであるのに対し、「ガーダシル」は16型・18型に加えて、尖圭コンジローマの原因ウイルス6型・11型の合計4価の予防ワクチンです。
子宮頚がんだけでなく、尖圭コンジローマを防ぎたい方は是非「ガーダシル」を接種しましょう。これが唯一の確実な予防法です。

ちなみに「ガーダシル」は6ヵ月の間に3回の接種(初回・2ヵ月後・6ヵ月後の筋肉注射)が必要です。

 

 

他の性感染症に比べて、あまり注目されない印象がありますが、尖圭コンジローマは大変“鬱陶しい”疾患です。
感染を防ぐため、性交経験後でも全く構いませんので、4価HPVワクチン「ガーダシル」の接種を強くお勧めします。