院長コラム

将来妊娠を希望しない方の子宮筋腫の治療法

子宮筋腫とは子宮に発生する良性の腫瘍で、30歳以上の女性の20~30%にみられるといわれています。
子宮筋腫の多くは無症状ですが、子宮内膜を圧迫するような粘膜下筋腫・筋層内筋腫がある場合は、過多月経・過長月経をきたし、貧血となるケースもみられます。
また、子宮筋腫が増大し、下腹部痛、頻尿(膀胱圧迫)、便秘(直腸圧迫)などの症状を認める方もいらっしゃいます。
今回は、「産婦人科ガイドライン婦人科外来編2020」「女性医学ガイドブック思春期・性成熟期編2016年度版」などを参考に、将来妊娠を希望しない方の子宮筋腫の治療法について説明します。

 

無症状で巨大でない場合は経過観察

過多月経・過長月経、下腹部痛や周辺臓器への圧迫症状など、子宮筋腫に伴う症状がみられない場合は、必ずしも治療の必要がなく、定期的な経過観察となります。ただし、急速に筋腫が増大した場合、MRI検査などで悪性腫瘍(子宮肉腫)を否定できない場合、巨大筋腫で深部静脈血栓症のリスクが高い場合などは、無症状であっても子宮全摘術を行うことがあります。

 

日常生活に支障をきたす症状がある場合は子宮摘出術

様々な症状により生活に支障をきたしている場合や、過多月経・過長月経により貧血となってしまった場合は、原則として子宮摘出術が推奨されています。
手術療法には、子宮全体を摘出する子宮全摘術と、筋腫だけを摘出して子宮を温存する子宮筋腫核出術がありますが、今後妊娠を希望されないのであれば、通常は根治術である全摘術を行います。

 

閉経間近の方は偽閉経療法で“逃げ切り”を狙うことも

女性ホルモンの影響で子宮筋腫は増大するため、閉経後は子宮筋腫が縮小することも期待できます。そのため、月経周期が延長し、血液検査の結果で閉経が近いと推測される方で、手術療法を希望されない場合は、人工的にエストロゲン分泌を抑制する偽閉経療法(内服薬、皮下注射、点鼻薬)を行うことがあります。
ただし、長期の治療により骨密度が低下するため、原則として最長6か月間しか行えません。もし、治療終了後も自然閉経とならない場合には、骨粗しょう症に注意しながら、十分な休薬期間を開けて再投与することもあります。

 

手術の代替治療として子宮動脈塞栓術を考慮

子宮を栄養している子宮動脈に特殊な物質(エンボスフィア:保険適応)を詰め、子宮筋腫を“兵糧攻め”にする子宮動脈塞栓術(UAE)は、過多月経の改善効果や子宮筋腫の縮小効果が認められています。特に、手術を希望しない方、合併症などにより手術のリスクが高い方などにお勧めです。
ただし、UAEが可能な施設は全国でも限られており、当院近隣の施設では行っていないため、現時点ではUAE目的で当院から高次施設へ紹介するケースはほとんどありません。

 

ガイドラインに記載されている子宮筋腫治療法は以上のようになりますが、実際にはご本人の症状、生活、人生設計などを考慮しながら、複数の治療法を組み合わせて行っています。
今後、UAEが可能な施設が増えると、UAEの推奨度が高くなることも予想されます。
近い将来、子宮筋腫治療のガイドラインも変わっていくかも知れません。