院長コラム

子宮腺筋症に対する薬物療法の選択肢

子宮腺筋症は、子宮筋層の中に子宮内膜組織(あるいは類似の組織)が存在し、子宮壁が次第に肥厚していく病気です。
主な症状は月経困難症や過多月経ですが、不妊や妊娠時の合併症にも関連しています。
今回は「産婦人科navi」(2022年7月発行)の記事を参考に、子宮腺筋症に対する薬物療法の選択肢について説明します。

 

<鎮痛剤・止血剤>

症状が軽度~中等度の場合や現在妊娠のご希望がある場合は、月経困難症に対して鎮痛剤、過多月経に対して止血剤を使用します。
当院では鎮痛剤として「ロキソニン錠」「ボルタレン錠」を処方することが多く、月経開始前日頃からの服薬をお勧めしています。
また、止血剤として「アドナ錠」「トランサミン錠」を出血が減少するまで服用して頂きます。
尚、これらの薬剤は、後述の治療に併用することがあります。

 

<子宮内黄体ホルモン放出システム(LNG-IUS)>

軽度な子宮腺筋症で、しばらくは妊娠の希望がなく、月経困難症・過多月経がみられる場合に使用します。
放出される黄体ホルモンの作用により子宮内膜を薄くさせ、内膜から分泌させる痛み物質も減少させます。月経開始から3~7日目までに受診して頂き、IUSを子宮内に挿入し留置します。
一度挿入したら5年間は有効ですが、大きな子宮腺筋症の場合、自然に脱出してしまうことも少なくありません。
また、全身的な副作用の心配はほとんどありませんが、子宮壁の肥厚を食い止めることができないため、IUS挿入中に後述の治療を併用することもあります。

 

<経口黄体ホルモン製剤(ジエノゲスト)>

子宮腺筋症に伴う疼痛に対して保険適応があり、妊娠を希望されないのであれば長期投与も可能な薬剤です。
月経開始2~5日目から、「ディナゲスト錠1.0㎎」などを1日2回服薬して頂きます。
ただし、高度な子宮腫大や重度の貧血では、大量出血を引き起こすことがあるため、軽度~中等度の子宮腺筋症を対象としています。

 

<偽閉経療法>

子宮筋腫あるいは子宮内膜症を合併している場合、人工的にエストロゲン分泌を抑制して、閉経後のようなホルモン環境を作る「偽閉経療法」が有用です。
毎日1錠服薬する「レルミナ錠」、あるいは月に一回皮下注射する「リュープロレリン注1.88」などを使用します。
子宮腺筋症の治療効果は高いですが、長期間の使用により骨量が低下する可能性があるため、原則6か月間までの使用となっています。

 

実臨床では、偽閉経療法終了後にディナゲスト錠1.0㎎を閉経まで使用するなど、複数の薬物療法を組み合わせることがあります。
また、様々な薬物療法でも改善しない場合や、再発を繰り返す場合には、子宮全摘術などの手術療法を行った方が望ましいこともあります。
その場合には、高次施設へ紹介させて頂きます。