院長コラム

子宮内膜症の薬物治療について

子宮内膜症の治療として、腹腔鏡下での嚢胞切除術や癒着剥離術などの手術を行うことがありますが、基本的には薬物療法が主体です。
今回は、「産婦人科navi vol.1(2020年5月発行)」(富士製薬工業株式会社発行)などを参考に、子宮内膜症に用いる主な薬剤について説明します。

 

 

○ 低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤(LEP:ヤーズフレックス錠・ジェミーナ錠など)

LEPは、月経困難症に対して保健適応がある“低用量ピル”であり、排卵抑制作用および子宮内膜組織の増殖抑制作用があります。避妊をご希望されている10代から30代の女性に用いられることが多く、服用中止後約2か月で排卵が戻ります。

服用の仕方は、28日周期で偽薬または休薬により意図的に出血を起こさせる周期投与と、長期間(約3~4か月またはそれ以上)継続して実薬を服用する長期間連続投与があります。子宮内膜症の治療という観点からは、できるだけ出血の回数も減らした方がいいため、長期間連続投与(「ヤーズフレックス錠」「ジェミーナ錠」)をお勧めします。

重篤な副作用としては、頻度は低いですが血栓症があります。特に発症しやすいといわれる服用開始からの3か月間は、毎月受診して頂いて、足の痛み・腫れ、激しい胸痛・腹痛・頭痛、視覚障害など、血栓症が疑われる症状の有無を確認する必要があります。

 

 

○ 黄体ホルモン製剤:ジェノゲスト(ディナゲスト錠など)

黄体ホルモン製剤には子宮内膜組織の増殖を抑制する働きがあり、中でも「ディナゲスト錠」は排卵抑制作用もあるため、子宮内膜症に対する治療効果は高く、LEPとともに第一選択薬として使用されます。

エストロゲンの分泌を抑える作用もありますが、骨粗しょう症や更年期障害をきたすことはほとんどなく、長期に渡り使用することが可能です。また、LEPと異なり血栓症のリスクもないため、肥満の方、40歳以上の方、喫煙者などに対しても使用しやすい薬剤です。

ただし、副作用として比較的多量の子宮出血をきたすことがあります。その予防策として、LEPあるいはGnRHアゴニストを数か月使用し、子宮内膜が薄くなってから「ディナゲスト錠」に切り換えるという方法もあります。

 

 

○ GnRHアゴニスト(リュープロレリン酢酸塩1.88皮下注など)

GnRHアゴニストは、脳の下垂体を刺激して卵胞刺激ホルモン(FSH)を分泌させる薬剤で、FSHの作用により卵胞からエストロゲンが分泌されます。しかし、GnRHアゴニストが下垂体を刺激し続けてしまうと、かえって下垂体の反応が低下し、FSHの分泌が低下します。その結果、エストロゲンの分泌も低下し、あたかも閉経となったかような状態になります。

「リュープロレリン酢酸塩1.88注」は月に1回皮下注をするだけで、ディナゲスト錠と同等の効果があると言われています。しかし、長期間投与すると、エストロゲン分泌減少に伴い骨密度が低下するため、原則6か月までの投与とされています。そのため、術前にチョコレート嚢胞を縮小させる目的や、自然閉経までの逃げ込み療法として使用することが多い薬剤です。

 

 

当院では、患者さんのご年齢、妊娠希望の有無、症状の程度、チョコレート嚢胞の大きさなどを考慮し、治療薬を検討します。
各治療薬のメリット・デメリットなどの情報を患者さんと共有し、相談しながら治療法を決定して参ります。
月経痛が辛い方、健診でチョコレート嚢胞と診断された方は、是非ご受診下さい。