院長コラム

子宮内膜症が「現在」と「将来」の生活に与える影響

子宮内膜症は月経痛などの疼痛を引き起こし、不妊症の原因にもなる重大な疾患です。しかし、子宮内膜症が生活に与える影響についての患者さんの立場からの研究はあまり多くはなく、これまでは医師の立場からの研究が中心でした。
昨年発行されました「日本女性医学学会ニューズレター Vol.25 No.1 Sep.2019年」に、患者さんの視点に立って評価する「子宮内膜症の生活への影響に関する研究」の記事が記載されていました。
今回は、「産科と婦人科 2019年12月号」の記事も参考に、子宮内膜症が「現在」と「将来」の生活に与える影響について、情報を共有したいと思います。

 

 

「子宮内膜症による生活への影響」の自己評価

子宮内膜症と診断されたスウェーデン人女性を対象に、患者さんが疾患をどのように捉えているかを身体的、社会的、精神的側面から多面的に評価を行なう質問紙を用いて、「子宮内膜症による生活への影響」の研究が行なわれました。

その結果、質問項目のうち「身体機能」、「日常役割機能(身体)」、「体の痛み」、「全体的健康感」、「活力」、「社会生活機能」、「日常役割機能(精神)」、「心の健康」の8つの尺度において、子宮内膜症患者さんでは一般女性と比べて有意に低かったそうです。

 

 

生活への影響の年齢別特徴

「異性との関係」「社会生活」などに悪影響を及ぼすと答えた方はすべての年代に見られたようですが、16~24歳では「学業」への悪影響、24~34歳では「就労」への悪影響、35歳以上では「金銭面」への悪影響を訴える方が多かったそうです。

16~24歳群では2/3の患者さんが、子宮内膜症により通学や勉強に集中することが困難であると答えており、24~34歳では就労に問題があり、欠勤や就労時間の短縮、希望の職業からの離職といった悪影響がみられた事例もあったそうです。このように、学業や仕事に悪影響を及ぼしているということは、人生の質の低下に繋がります。

 

 

心血管系疾患のリスク因子としての子宮内膜症

また、「産科と婦人科 2019年12月号」の「女性における動脈硬化性疾患のリスク因子の特徴」によると、子宮内膜症の女性はそうでない女性と比べて、将来、脂質異常症や高血圧となるリスクが高く、心筋梗塞、狭心症、冠動脈バイパス手術/ステント治療の割合が有意に高いと報告されており、特に40歳以下の若年者ほどリスクが高いとのことです。
つまり若くして子宮内膜症になってしまったら、生涯にわたり心血管系疾患のリスクを抱えて生きていくことになります。

 

 

10代で月経困難症がみられる方は、将来子宮内膜症になるリスクが高いという報告もあります。
子宮内膜症は「現在」の生活はもちろん、「将来」の健康や生活にも悪影響及ぼし、一生まとわりついてきます。
月経痛が強くなった時点で婦人科を受診し、子宮内膜症が認められれば早めに治療を開始しましょう。明らかな子宮内膜症が認められない場合でも、予防することが大切であると思われます。