院長コラム

妊婦さん・授乳婦さんが服薬可能な便秘薬について

妊娠中は、ホルモンの影響で消化管運動が低下し、増大子宮による大腸の圧迫などのため便秘をきたしやすく、下剤を用いることも少なくありません。
今回は、当院でよく用いる薬剤についてのお話に加え、昨年発売された比較的新しい下剤「モビコール配合内用薬」について簡単に説明します。

 

 

緩下剤と大腸刺激性下剤

便秘で苦しむ妊婦さんに対し、食事や水分摂取、運動などの生活習慣の指導を行い、それでも便秘が持続する場合は薬物療法を行ないます。下剤には緩下剤と大腸刺激性下剤の二種類がありますが、妊婦さんや授乳婦さんに用いる場合、原則的に緩下剤を第一選択にしています。

○ 緩下剤:酸化マグネシウム・マグラックスなど

緩下剤は腸内で腸内容物に水分を吸収させて、膨大・軟化させます。その結果、腸の蠕動運動が亢進し、排便が促されます。

薬の成分は腸管から血中にほとんど吸収されず、作用もゆっくりであり、腹痛をきたすことはほとんどありません。習慣性もなく、どの妊娠期間でも服用可能です。

当院ではマグラックス330mg 3錠/日で開始し、もし効果が不良であれば6錠/日まで増量して経過観察します。それでも便秘が改善しない時には大腸刺激性下剤への切り替えか、もしくは2剤の併用を行ないます。

 

○ 大腸刺激性下剤:ラキソベロンなど

大腸刺激性下剤は文字通り、大腸を刺激して腸の蠕動運動を活発にします。また、大腸での水分吸収を阻害し、腸内容物の容積を増やすことで排便を促します。

緩下剤と比較すると、作用はやや強く、腹痛をきたすことも少なくありません。習慣性もあるため屯用で服用することが多いやくざいです。

当院では、マグラックスの効果が不良な時に切り替え、あるいは併用薬として用います。その際、液状のラキソベロンを用いることが多く、就寝前にコップ1杯の水に10滴垂らして服用してもらっています。

 

 

漢方薬の用い方

一般的に漢方薬は妊婦さんに使用しやすい薬剤ですが、大腸の蠕動運動を亢進させる生薬は、子宮の収縮も亢進させてしまう可能性があるので妊娠中は注意が必要です。

特に大黄という生薬は子宮収縮作用を持っていることから、少なくとも妊婦さんの第一選択としては処方しません。また、授乳婦さんに対しても、乳汁に移行した生薬の影響で乳児が下痢をおこす可能性も否定できないため、当院ではあまり処方しません。

ただし、腹部膨満を認める方には大建中湯という腸蠕動改善効果がある漢方薬を使用することがあります。この漢方は、腸蠕動が強すぎる場合には抑え、弱い場合には活発にするといったように、腸蠕動を調節する作用があります。また、切迫早産や乳児の下痢をきたすことはなく、他の下剤とも併用しやすいのが特徴の一つです。

 

 

「モビコール配合内用薬」について

昨年日本で発売されたモビコール配合内用薬は、海外では多くの臨床経験を持つ薬剤です。作用は、腸内容の水分量を増やし、便を軟化させ、容積を増大させることで大腸の蠕動運動を亢進させ、排便を促します。

作用機序は酸化マグネシウムと似ていますが、服用方法が異なります。モビコール配合内用薬は水に溶かして服用するタイプで、1日1回2包を約120mlの水またはジュースに溶かして服用します。また、食事と服用のタイミングに決まりはありません。

日本では妊婦さん・授乳婦さんの臨床経験は多くはありませんが、海外ではかなり使用されており、胎児や乳児へ悪影響を及ぼすことはないようです。

 

 

便秘は妊婦さん・授乳婦さんにとって大変つらいトラブルです。食事内容や運動習慣などに気を付けるだけでなく、便秘が悪化する前に下剤を服用しましょう。
もし、従来の下剤では便秘が改善しない場合には、新しい下剤の使用も検討致します。