院長コラム

女性の不定愁訴に対する漢方薬の役割

先日、日赤医療センター内科・漢方外来の先生から、「女性の不定愁訴の漢方治療~月経前症候群・更年期症候群・冷え症など~」についてのお話を伺いました。
現在当院で行っている漢方療法以外の使い方やコツなど、多くの事を勉強させて頂きました。
今回は、この講演会での学びを踏まえて、不定愁訴の女性に対し、どのように漢方薬を用いるべきかについてお話致します。

 

 

月経困難症に対する漢方薬の役割

月経困難症には、子宮内膜症・子宮筋腫などの疾患が原因の器質的なものと、そのような疾患のない機能的なものがあります。どちらも低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP製剤:ヤーズ、ヤーズフレックス、ジェミーナなど)を第一選択にすることが多いですが、LEP製剤が禁忌である方、副作用によって中止を余儀なくされた方、ホルモン治療に抵抗がある方など、LEP製剤が使用できないケースも少なくありません。そのような時は、漢方薬が非常に有用です。

女性の不定愁訴に用いる漢方薬で、最もポピュラーなのは当帰芍薬散です。特に、やややせ型・きゃしゃ、色白、全身の筋肉量があまり多くない女性に有効です。当帰芍薬散には筋肉の収縮を緩める作用があるため、子宮筋の過度な収縮が原因である機能性月経困難症には、とてもいい適応になります。

ちなみに、当帰芍薬散には温める作用・補血効果・浮腫を除く作用など多くの作用があるため、手足の冷え・めまい・立ちくらみ・浮腫・頭痛・関節痛などにも効果があり、産後の腰痛にも有効な場合があるそうです。

 

 

月経前症候群(PMS)に対する漢方薬の使い方

当院では、月経困難症がある方のPMSに対してはLEP製剤が第一選択、抑うつが強い方には抗うつ剤(SSRI:レクサプロなど)を用いています。しかし、漢方薬を単独あるいは併用して用いることも少なくありません。

精神症状が強い方には加味逍遥散、抑肝散が処方の軸になります。抑うつ不安が主たる症状の方には加味逍遥散を用いることが多く、いらいら・怒りっぽい・攻撃的・せっかちの方には抑肝散(または抑肝散加陳皮半夏)を用います。また、抑肝散は比較的速効性があるため、屯服でも効果を発揮するそうです。抑うつが主体の方で、時々いらいらが強くなる方には、加味逍遥散を継続服用し、抑肝散を屯服する方法や2剤を継続して併用する方法などがあります。

尚、加味逍遥散、抑肝散はやや虚弱体質の方向けの漢方ですが、体格がいい方・筋肉質の方には桃核承気湯が有用との事です。特に便秘気味の方には便通を整える効果がありますので、非常にいい適応になります。

 

 

産後の疲労感・抑うつに対する漢方薬は

産後は、分娩という大事業の後であり、急激なホルモン変化、育児や乳房トラブルなど、肉体的・精神的にダメージを受けやすい時期です。疲労感がたまり、抑うつ傾向がみられる褥婦さんも少なくありません。

このような時は、補中益気湯が非常に有効です。当院では、産後2週間健診、1か月健診、母乳外来でみえた褥婦さん、授乳婦さんの疲労感、軽度な抑うつに対しては、補中益気湯を第一選択として処方しています。また、冷えや貧血がある方には、人参養栄湯、十全大補湯を用いることもあります。

尚、補中益気湯には免疫力を高める効果があるため、風邪を引きやすく、体調を崩しやすい方にはお勧めです。また、産後、髪が抜けるお悩みの方もいらっしゃいますが、補中益気湯が奏効した例もあるとの事です。

 

 

今回挙げた症状以外にも多くの不定愁訴がありますが、漢方療法は非常に有用です。もちろん、西洋薬と併用することも可能です。
私たちは皆様の体格、体質、症状、生活などに合わせて、ご相談させて頂きながら薬剤を選択します。
是非、お気軽にご相談下さい。