院長コラム

妊娠中・授乳中の予防接種

予防接種には、病原体を弱毒化した「生ワクチン」と病原体の感染力を失わせた「不活化ワクチン」の二種類があります。
今回は、「産婦人科診療ガイドライン産科編2020」(日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会編)、「予防接種ガイドライン2020年度版」(予防接種ガイドライン等検討委員会監修)を基に、妊娠中・授乳中の予防接種について説明します。

 

妊娠中のワクチン接種

  • 生ワクチンは接種できません

麻疹ワクチン、風疹ワクチン、麻疹・風疹混合(MR)ワクチン、水痘ワクチン、流行性耳下腺炎(おたふくかぜ)ワクチンなどは生ワクチンです。これらのワクチン接種は理論上胎児に移行する危険性があるため、原則として妊婦さんは禁忌となっています。
また、風疹ワクチン、麻疹ワクチン、MRワクチン、水痘ワクチンの場合は接種後2か月間、その他の生ワクチンの場合は接種後1か月間妊娠を避ける必要があります。
ただし、仮にこの期間に妊娠が成立したとしても、臨床的に有意な胎児リスクは上昇しないため、妊娠を中断する必要はありません。

 

  • 原則として不活化ワクチンは接種可能です

一方、不活化ワクチンは胎児への感染の可能性がないため、原則として妊娠中に摂取することは可能です。多くの不活化ワクチンの中でも特に妊婦さんに馴染みがあるのは、インフルエンザワクチンではないでしょうか。妊婦さんがインフルエンザウイルスに感染すると重症化する可能性があります。ワクチン接種により重症化を予防する効果が期待できますので、むしろ積極的に妊娠中の接種をお勧めします。

 

  • 例外としてHPVワクチンは接種しません

不活化ワクチンの中で、例外的にHPVワクチンは妊娠中の接種は避けることになっています。というのも、比較的新しいワクチンであり、妊娠中に接種する有効性・安全性が確立されていないためです。HPVワクチンは3回の接種が必要ですが、初回あるいは2回目のワクチン接種後に妊娠が判明した場合は、それ以降の接種は分娩後に行うようにします。
ただし、HPVワクチンが妊娠や胎児に影響を及ぼすことを示すデータはなく、ワクチン接種中に妊娠した女性のデータでは、自然流産や先天奇形などの発生率が高くなることはないようです。

 

 

授乳中のワクチン接種

生ワクチン・不活化ワクチンともに母乳の安全性に影響を与えません。そのため、授乳中はどちらのワクチンも接種可能です。
当院では、風疹抗体価が低い世田谷区民に限り、分娩後の入院中に、助成券を利用してMRワクチンを接種することができます。
ただし、血液型Rh陰性のお母さんが分娩後に抗D免疫グロブリンを注射した場合、それが生ワクチンの効果を弱める可能性があるため、投与後3か月経過してからMRワクチンを接種しなけばなりません。

 

 

近々妊娠を予定している方は、風疹の抗体をどの程度持っているかをあらかじめ確認して頂くことをお勧めします。
もし必要であれば、早めに風疹ワクチンまたはMRワクチンを接種し、2ヵ月間は妊娠を避けるようにしましょう。