院長コラム

「アトム子宮止血バルーン」導入

産後の多量出血の70%は、子宮収縮不良が原因と言われています。「産科危機的出血への対応指診2017」には、様々な初期対応が書かれていますが、その一つに「子宮腔内バルーンタンポナーデ」という方法が推奨されています。
これまで当院では、子宮腔内バルーンタンポナーデを行う際、子宮頚管の拡張などに用いる「オバタメトロ」という水風船を使用していましたが、この度、新しく発売されました「アトム子宮止血バルーン」を導入することと致しました。
今回は、アトム子宮止血バルーンを用いた分娩後多量出血の治療ついて説明します。

 

 

子宮腔内バルーンタンポナーデとは

胎盤が剥がれた後、通常は子宮が強く収縮することで剥離面の血管が閉じ、出血が減少し止血されます。しかし、何らかの原因で子宮収縮が不良になると、胎盤剥離面の血管が閉じずに、出血が持続することになります。
子宮腔内バルーンタンポナーデとは、子宮腔内に生理食塩水などで膨らんだ水風船(バルーン)を留置し、圧迫する方法です。子宮体下部をバルーンで圧迫すると、子宮を収縮させる作用のあるオキシトシンの分泌が促され、その結果子宮筋全体が収縮し、出血がおさまると考えられています。

 

 

アトム子宮止血バルーンを使用する場面

当院では、分娩後の弛緩出血(子宮収縮不良による出血)の対応を以下のように行っています。子宮体を両手でマッサージするように圧迫しながら、オキシトシン入りの細胞外液(ハルトマン)を両腕から急速に点滴投与し、循環血流量を維持します。
さらに、エルゴメトリンマレイン酸(子宮収縮薬)の筋肉注射、トランサミン(止血剤)の静脈注射を行うこともあります。
それでも子宮収縮が不良で止血が困難な場合は、アトム子宮止血バルーンを使用します。

 

 

アトム子宮止血バルーンの使用法

バルーンに手を添えながら子宮腔内に挿入し、精製水などを注入してバルーンを拡張させます。止血効果を得られる最も少ない量を注入しますが、多くの場合100~150mlが適量のようです。
子宮下部の適切な位置に留置し、バルーンが子宮腔から落ちてこないように、腟内にガーゼを挿入します。
経腹超音波検査で子宮内の血液貯留を確認し、子宮内から流出する血液をバッグに貯めて、適宜出血量を確認します。

 

 

アトム子宮止血バルーン使用後の対応

施設によっては15分間留置し、止血が確認できたら抜去する事もあるようですが、当院では原則として、アトム子宮止血バルーンを留置した場合は、ほぼ全例留置した状態で高次施設へ救急搬送致します。
つまり、アトム子宮止血バルーン使用が望ましいと判断した時点で、母体搬送の準備を並行して行います。

 

 

当院は小規模のクリニックですが、最新のガイドラインに則った適切な対応と、近隣の高次施設との病診連携の充実に心掛けています。
これからもお母さんと赤ちゃんのために、より安心・安全な医療を目指して参ります。