院長コラム

分娩施設決定の参考に~妊娠リスクスコア~

安全と思われていた妊娠・出産でも、予想できないような緊急事態になることがあります。残念ながら、100%安全な妊娠・分娩はありません。そのため、「母児の安全を考えれば、全妊婦さんはスタッフや設備が整った高次施設で分娩すべきである」との考え方があります。しかし、あまりにも高次施設に妊婦健診や分娩が集約し過ぎると、スタッフの労働状況がますます過酷になり、結果的に医療の質や安全性にも影響がでる可能性があります。
そこで、妊娠が判明した段階で「初期 妊娠リスクスコア」を用いて既往歴や合併症などのリスクをチェックし、リスクの程度で分娩施設を決めるという方法が推奨されています。
今回は「初期 妊娠リスクスコア」と推奨されている分娩施設の選び方を紹介し、次回は当院での分娩可能な条件について説明します。

 

 

初期 妊娠リスクスコア:全18問

① 分娩する時の年齢は?
・16-34歳:0点 ・35-39歳:1点
・15歳以下:1点・40歳以上:5点

② お産の経験は?
・経産婦:0点 ・初産婦:1点

③ 身長は?
・150cm以上:0点 ・150cm未満:1点

④ 妊娠前の体重は?
・65kg未満:0点       ・65-79kg:1点       ・80-99kg:2点  ・100kg以上:5点

⑤ たばこを1日20本以上吸いますか?
・いいえ:0点 ・はい:1点

⑥ 毎日お酒を飲みますか?
・いいえ:0点 ・はい:1点

⑦ 向精神薬を使用していますか?
・いいえ:0点 ・はい:2点

⑧ これまでに次の事項に当てはまりますか?
・高血圧あるが服薬していない・先天性股関節脱臼
・子宮癌検査で異常(高度異形成以上)・肝炎
・心臓病があるが、激しい運動をしなければ問題ない
・甲状腺疾患があるが、症状はない・糖尿病があるが、服薬も注射もしていない
・風疹の抗体がない
*チェック数x1点

⑨ これまでに次の事項に当てはまりますか?
・甲状腺疾患があり管理不良・SLE・慢性腎炎・精神神経疾患
・気管支喘息・血液疾患・てんかん・Rh陰性
*チェック数x2点

⑩ これまでに次の事項に当てはまりますか?
・高血圧で服薬中・心臓病で、少しの運動でも苦しい
・糖尿病でインスリンを注射している・抗リン脂質抗体症候群といわれた・HIV陽性
*チェック数x5点

⑪ これまでに次の事項に当てはまりますか?
・子宮筋腫・円錐切除後
前回妊娠時に
・妊娠高血圧症候群(血圧140/90以上160/110mmHg未満)
・産後出血多量(500ml以上)・巨大児(4000g以上)
*チェック数x1点

⑫ これまでに次の事項に当てはまりますか?
・巨大子宮筋腫・子宮手術後・2回以上の自然流産・帝王切開・早産
・死産・新生児死亡・児の大きな奇形・2500g未満の児の出産
*チェック数x2点

⑬ これまでに次の事項に当てはまりますか?
・前回妊娠時に妊娠高血圧症候群重症(血圧160/110mmHg以上)
・前回妊娠時に常位胎盤早期剥離
*チェック数x5点

⑭ 今回不妊治療は受けましたか?
・以下の治療はなし:0点・排卵誘発剤の注射:1点・体外受精:2点

⑮ 今回の妊娠は?
・減数手術を受けた:1点・長期不妊治療後の妊娠:2点

⑯ 今回の妊婦健診について
・28週未満から健診:0点・28週以降が初診:1点・分娩時が初診:2点

⑰ 赤ちゃんに染色体異常があるとい言われていますか?
・言われていない:0点・疑いがある:1点・異常が確定している:2点

⑱ 妊娠初期検査で異常があるといわれていますか?
・B型肝炎陽性:1点
・性感染症(梅毒・淋病・外陰ヘルペス・クラミジア)の治療中:2点

 

リスクスコアによる判定

・0~1点:現在のところ大きな問題なし
⇒個人病院・個人施設・助産院でも可

・2~3点:少しリスクあり
⇒中規模医療施設(総合病院・産科専門病院など)
 ハイリスク妊娠に対応可能な病院と連携している施設

・4点以上:ハイリスク妊娠
⇒高次医療施設(大学病院・周産期センターなど)

 

この妊娠リスクスコアの評価については、各施設の規模や地域性なども関係しているため、完全に従わなければいけないというものではありませんが、大変参考になります。
次回は、このリスクスコア問診票をふまえ、当院での分娩が可能な条件について説明します。