院長コラム

“冷え”に効く漢方薬

1月も下旬になり、ますます寒さが厳しくなってきました。この季節、特に女性の方は冷えに悩まされている方も多いのではないでしょうか。
今回は、「女性診療で使えるヌーベル漢方処方ノート(改訂2版)」(メディカ出版)を参考に、冷えに効く漢方薬について、症状のタイプ別に情報を共有したいと思います。

 

(1)末梢冷えタイプ

手足の先が冷たい方がこのタイプです。末梢循環不全が原因と考えられており、適切な運動習慣が予防に有効です。漢方薬では、次の二つが勧められています。

・当帰四逆加呉茱萸生姜湯(トウキシギャクカゴシュユショウキョウトウ)

この漢方薬に含まれている“細辛(サイシン)”という生薬は、体を温める作用が強いことで知られています。
また、“呉茱萸(ゴシュユ)”は頭痛に効果があるため、冷えからくる頭痛にも効果があるようです。
ちなみに、婦人科の手術や帝王切開の既往のある方に有効ともいわれているようです。

・当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)

この漢方薬は、月経困難症や更年期障害などに用いられることが多く、婦人科領域で最も処方されている漢方薬の一つです。
比較的虚弱体質の方に用い、“むくみ”に対しても有用です。
「手足の冷え」+「むくみ」に悩まれている方への第一選択薬かもしれません。

 

(2)腹部冷えタイプ

体の芯が冷えて、全身も冷えてしまう方がこのタイプです。胃腸が弱い方、下痢をしやすい方に多くみられるようです。次の二つの漢方薬が勧められています。

・人参湯(ニンジントウ)

お腹を温めて、胃腸の働きを高める漢方薬です。
食欲不振、嘔気、胃痛、腹痛、下痢などを改善し、産科領域では“つわり”の方に用いることがあります。

・真武湯(シンブトウ)

虚弱な体質で、下痢をしやすい方に用いることが多いようです。
この漢方に含まれている“附子(ブシ)”は“トリカブト”の事ですが、きちんと“毒抜き”がされています。

 

(3)冷えのぼせタイ

「下半身は冷えるが、上半身はほてる」といった方がこのタイプです。
更年期障害の方にみられることが多く、ホルモン補充療法でも改善したい冷えに対して、以下の漢方薬を用いることがあります。

・加味逍遥散(カミショウヨウサン)

冷えのぼせは、ストレスや精神症状が原因の一つと考えられています。
加味逍遥散はほてりを改善させるだけでなく、様々な精神症状にも有用です。
虚弱体質の方の「冷えのぼせ」+「多彩な精神症状」に対する第一選択と考えられます。

・桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン

前述の「当帰芍薬散」「加味逍遙散」とともに更年期障害に対して処方されることが多い漢方薬です。
血行の“とどこおり”を改善することで冷えを改善します。
比較的体力ある方の冷えのぼせに対して、第一選択と思われます。

・桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)

更に体力がある方で、便秘気味、精神症状が強い場合に用います。
通常、漢方薬を処方する場合は一日2~3回の服用が基本になりますが、桃核承気湯の場合、通常量で下痢をきたすことが少なくありません。
そのため、服薬量を少量から始めて様子をみる場合があります。

 

その他にも、冷えに有効な漢方薬はいろいろあります。
体格・体質や他の症状をみながら、個々に合った漢方薬を選択します。
ただし、食生活や運動習慣といった日常生活の改善も併せて行うようにしましょう。