院長コラム

中高年女性の口腔内症状とホルモン補充療法

女性ホルモン(エストロゲン)の低下に伴い、多彩な更年期症状が見られますが、口の中に様々な症状が出現することもあります。
今回は、「ホルモン補充療法(HRT)がよくわかるQ&Aハンドブック2019」(女性の健康とメノポーズ協会)、「ホルモン補充療法ガイドライン2017年度版」(日本産科婦人科学会・日本女性医学学会 編集/監修)、「女性医学ガイドブック 更年期医療編2019年度版」(日本女性医学学会編)などを参考に、中高年女性の口腔内症状とホルモン補充療法(HRT)について説明します。

 

 

HRTでドライマウスが改善するケースも

ドライマウスの原因はシェーグレン症候群などの自己免疫疾患、神経性、薬剤性、全身疾患性など多岐にわたりますが、ある報告によると患者さんの7割以上が女性で、更年期以降の方が多いとのことです。

エストロゲンの低下に伴い腟粘膜の乾燥感や萎縮がみられますが、口の中の粘膜も乾燥する可能性があります。ある研究では「HRTによって唾液の分泌量の増加、口腔乾燥感の軽減など、ドライマウスが改善されたと」の報告がある一方、「HRTでは症状は変化しなかった」との研究報告もあります。このように、HRTの口腔粘膜に対する効果については、一定の見解が得られてはいないのが現状です。

ただし、ドライマウス以外の更年期障害もみられ、他の疾患が否定された閉経後女性に対しては、HRTも治療の選択枝の一つになると思われます。

 

 

HRTによる歯周病の予防・改善の可能性も

歯周病は口の中の歯周病菌によって起こる歯肉の慢性的な炎症です。放置すると歯が抜け落ちることもあるため、歯肉の出血、口臭など口腔内の不調が見られたら、早めに歯科を受診することが大切です。

また、女性ホルモンの低下で口腔粘膜が乾燥すると、歯周病菌が増殖しやすくなることが知られており、HRTにより歯周病の予防や改善がみられたとの報告もあります。更年期障害でお悩みの閉経後女性の場合、歯周病の予防や改善のため、歯科診療と平行してHRTを検討してもいいかも知れません。

 

 

舌痛症に対するHRTの効果は不明

舌痛症とは、器質的な変化がみられないにもかかわらず、舌の痛みを訴える病態の総称で、原因は不明です。症状は「舌がヒリヒリする」「やけどしたみたいな感じ」などで、食事中や会話中には消失することが多いのが特徴のようです。

ストレスが原因とも考えられており、抗うつ薬・抗不安薬、柴朴湯や加味逍遥散などの漢方薬を用いることもあるようです。また、更年期以降の女性に多く、HRTで不快感が改善したとの報告がありますが、残念ながら積極的にHRTを推奨するほどの根拠はなさそうです。それでも、閉経後女性の方で、口腔外科での治療で舌痛が改善しないのであれば、HRTを試してみる価値はあるかもしれません。

 

 

口腔内の症状にHRTが有効であるとの報告は必ずしも多くはありませんが、歯科医あるいは口腔外科医の先生方と相談し、口腔内疾患の治療法の一つとしてHRTを検討してもいいかもしれません。