院長コラム

ホルモン補充療法の「開始時期」と「継続期間」

ホルモン補充療法(HRT)は更年期障害、閉経後骨粗しょう症に対して行なっていますが、「いつから始めるべきか」、「いつまで継続が可能か」を聞かれることがあります。
今回はHRTの開始時期、継続期間に関する当院の方針について、「ホルモン補充療法ガイドライン2017年度版」(日本産科婦人科学会・日本女性医学学会編)、「ホルモン補充療法(HRT)がよくわかるQ&Aハンドブック2019」(女性の健康とメノポーズ協会編集制作)を参考にお伝えします。

 

 

HRTを始める時期

HRTは、エストロゲンという女性ホルモンの低下に伴う更年期障害や骨粗しょう症などの治療目的で行ないます。つまり、エストロゲンが“ある基準”よりも下回ったときに、それを補充する形で投与するのがHRTです。当院では卵巣機能低下の判断として、血中エストラジオール(E2:エストロゲンの一種)が20pg/ml以下、卵胞刺激ホルモン(FSH:卵巣が働かないと高値になります)が40mIU/ml以上を基準にしています。この2つのホルモン値が基準を満たしている場合にHRTを行ないます。

更年期障害は、エストロゲンがある程度高値であっても、減少し始める段階から発症することも少なくありません。そのような時期にエストロゲンを補っても、そもそもエストロゲンの血中濃度自体は低くないため、あまり改善効果は期待できません。そのような方には、HRTよりも漢方療法、プラセンタ注射、大豆イソフラボン(エクオール)などが有効なことがあります。

当院では、3か月以上月経がない方や子宮摘出術後のため月経を認めない方には、E2とFSHを検査し、卵巣機能低下が認められた場合はHRTを検討しています。

尚、閉経から10年以上経過した方や60歳以上の方の場合、新にHRTを開始すると血栓症などのリスクが高くなるといわれています。したがって、HRTによるメリットが十分に高いと判断した場合に限り、副作用に注意しながらHRTを行なっています。

 

 

いつまで継続するか

副作用がなく調子がよければ、HRTはいつまでも継続が可能です。反対に、副作用の有無や効果の程度に関わらず、止めたいときにはいつでも止められます。当院ではHRT施行中の方に対して、1年に1回、子宮がん検査や超音波検査などの診察をしていますが、その際、HRT継続について確認します。60歳を超えてHRTをご希望されるもいらっしゃいますが、定期的な乳がん検査、子宮がん検査などの診察が可能であれば、HRTの継続を制限する年齢や投与期間は設定していません。

尚、HRT終了後の腟・外陰部の不快な症状に関しては、エストロゲン腟錠による局所投与を行なうことがあります。腟錠の場合は全身投与と異なり、血栓症などの副作用の心配はありませんので、更に安心して長期投与が可能です。

 

 

以前アメリカでの大規模研究で、HRTを5年以上施行した場合、乳がんリスクが上がると報告されました。しかし、10,000人のうち、HRTしていない方が30名乳がんになるのに対し、HRT施行している方が38名発症する程度、つまり10,000人中8名増加する程度です。しかも、研究でのHRTの内容はプレマリン0.625mg+プロベラ2.5mgの組み合わせです。当院では現在、HRTとしてこの薬剤の組み合わせは行なっていませんので、あえて“投与5年間で継続するかどうかを見直す”との説明はしていません。
HRTは万能薬ではありませんが、QOL(生活の質)向上に大変有用です。是非、有効性とデメリットをご理解頂いた上で、ご使用頂きたいと思います。