院長コラム

新たな月経困難症治療薬への期待

2020年5月、新たな月経困難症治療薬として、黄体ホルモン製剤である「ディナゲスト錠0.5mg」が新発売されました。これは、子宮内膜症や子宮腺筋症に伴う疼痛の改善に適応がある「ディナゲスト錠1.0mg」の半量の錠剤です。月経が始まって2~5日目から1日に2回、1回1錠0.5mgずつ(1日で合計2錠1.0mg)の服用を継続して頂きます。また、治療期間中は、低用量ピル以外の方法(コンドームなど)で避妊する必要があります。
今回は、「ディナゲスト錠0.5mg」の作用と現時点で期待される役割について、当院の考えをお示し致します。

 

 

「ディナゲスト錠0.5mg」の作用

月経痛の原因の一つに「プロスタグランディン」という“痛み物質”があります。この物質は子宮内膜組織で産生されるため、子宮内膜組織を少なくすればその分泌量は減少し、結果的に月経痛を抑えることができます。

子宮内膜組織は、卵巣にある卵胞という組織から分泌されるエストロゲンの作用で増殖します。エストロゲンは下垂体という脳の組織から分泌される卵胞刺激ホルモン(FSH)により調節されており、更にこのFSHも視床下部という脳の組織から分泌されるホルモンでコントロールされています。

ディナゲスト錠は、視床下部―下垂体の働きを抑制することでFSHの分泌が減少させます。同時に卵巣にも直接働きかけることで、エストロゲン分泌も低下させます。その結果、子宮内膜の増殖が抑えられ、痛み物質の産生が減少して月経痛が緩和します。さらにディナゲスト錠は、子宮内膜細胞の増殖を直接抑制する作用も持ち合わせています。

 

 

低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤(LEP製剤)との使い分け

現在、月経困難症の第一選択薬となっているLEP製剤(「ヤーズフレックス錠」「ジェミーナ錠」など)も、卵胞の発育を抑え、子宮内膜を薄くさせる作用があります。また、LEPは低用量ピルと同じ成分であり、排卵抑制作用は強く、ほぼ100%の避妊効果があります。ただし、LEP製剤にはエストロゲンが含まれている為、血栓症の副作用に注意する必要があります。

一方、「ディナゲスト錠0.5mg」は黄体ホルモン
のみの製剤であり、エストロゲンは含まれていません。そのため、血栓症のリスクがある方でも使用可能です。ただし、ディナゲスト錠服用中でも排卵する可能性があるため、妊娠には注意する必要があります。

以上から、使い分けの一例として、確実な避妊をご希望される方にLEP製剤,血栓症のリスクがある方はディナゲスト錠0.5mgが望ましいと思われます。

 

 

「ディナゲスト錠1.0mg」との使い分け

子宮内膜症の治療薬として実績がある「ディナゲスト錠1.0mg」は、1日2錠2.0mgを服用するため、子宮内膜組織の増殖を抑える作用は強く、卵巣チョコレート嚢胞の縮小効果も期待できます。ただし、副作用としての子宮出血、エストロゲン低下による更年期障害が問題になることがあります。

一方、「ディナゲスト錠0.5mg」の用法は1日2錠1.0mgであり、エストロゲンの低下作用はあまり強くないため、子宮内膜症の治療薬としては弱いと思いますが、更年期障害などの副作用は比較的軽いと思われます。

以上のことから、使い分けの一例として、卵巣チョコレート嚢胞が認められる方、妊娠を希望している子宮内膜症の方には「ディナゲスト錠1.0mg」1日2錠2.0mgでしっかり治療し、明らかな子宮内膜症が見られない月経困難症の方、「ディナゲスト錠1.0mg」で副作用が強い方は「ディナゲスト錠0.5mg」の服用がいいかもしれません。

 

 

まだ発売されて間がない薬剤であるため、当院でもあまり処方はしていませんが、月経困難症の治療薬として非常に期待しています。
現在月経困難症の治療をされている方で、従来の治療法では副作用が強い場合、あるいは効果が弱い場合には、今後「ディナゲスト錠0.5mg」(1日2錠)に切り替えることも検討して参ります。