院長コラム

「未病」を治療する漢方療法

先日開かれました漢方薬のセミナーで、産婦人科領域における漢方療法の第一人者で、富山大学で学長をされている先生のお話を伺う機会に恵まれました。
今回は、この講演会で得られました学びをお伝えしようと思います。

 

 

「未病」という考え方

「未病」という概念は、「病気の前段階の状態」を意味するようです。「正常状態」と「病気状態」の間に位置する未病ですが、「正常状態」と「未病状態」との関係は可逆的であるのに対し、「未病状態」と「病気状態」との関係は不可逆的であると考えられています。

病気になってから治すのではなく、いかに未病の段階で見つけて、病気に移行する前に治療できるか、が非常に大切であり、その治療法の一つとして、漢方薬がとても適しているとのことです。

 

 

最適な漢方薬の選択方法

西洋医学は病気の原因を探って治療薬を選択するのに対し、漢方療法では症状や体質に着目して治療薬を選択します。ただし、初診の時から患者さんの体質を確定することは非常に困難であり、漢方医学の大家の先生でも正しく判断できるのは3割程度だそうです。
つまり、初回の治療方針で100%の治癒を目指すのではなく、最善と思われる薬剤をまず使用し、その効果や反応をみて、修正しながらより的確な治療薬を探るのが漢方医学のようです。

具体的には2週間~1か月の使用で改善しない症状があれば、薬剤を追加または変更します。そして症状が改善すれば、服薬を中止し、再び症状が現れたら再開することが望ましいといわれています。

ちなみに、漢方薬は様々な生薬が配合されているため、一度に多くの種類の漢方薬を服用することはよくありませんが、2種類の漢方薬の併用は問題ないとの事です。

 

 

患者さんと医師が一緒に歩む漢方療法

より的確な治療法にたどり着くためには、症状と患者さんの体質から最適と思われる漢方薬を処方し、改善された症状と、改善されなかった症状を、問診票などで患者さんと医師の間で共有することが大切です。
「改善されなかった症状に対して、どの漢方薬が最適かを再び検討し、実際に処方し、症状の変化を確認する。」
これら患者さんと医師による一連の共同作業を繰り返しながら、一緒に最善の治療薬を探すという診療が、漢方療法と醍醐味かもしれません。

 

 

「患者さんとともに最善の医療を探していくこと」は漢方療法だけでなく、全ての医療に必要であると思います。
私も、患者さんの訴えを傾聴し、症状の変化を捉え、患者さんと一緒に最善の治療法を見つけていく、という姿勢を今後も心掛けて参ります。