院長コラム

月経前症候群・月経前不快気分障害・月経前増悪とは

先日、「第1回女性のライフサイクルとうつ研究会」の講演会に出席してきました。その中で東京女子医科大学東医療センターの精神科の先生から、女性の月経関連のうつについてのお話があり、大変勉強になりました。
今回は、講演内容および「女性医学ガイドブック思春期・性成熟編2016年度版」(女性医学学会編)を参考に、当院での月経前症候群・月経前不快気分障害・月経前増悪への対応について説明します。

 

 

月経前症候群(PMS)・月経前不快気分障害(PMDD)・月経前増悪(PME)とは

月経前症候群(PMS:premenstrual syndrome)とは、「月経開始の3~10日くらい前から始まる精神的、身体的症状で、月経開始とともに減退ないし消失するもの」と定義されています。アメリカでの診断基準には、精神症状として「抑うつ・怒りの爆発・いらいら・不安・混乱・社会からのひきこもり」、身体症状として「乳房痛・乳房の張り・腹部膨満感・頭痛・関節痛・筋肉痛・体重増加・手足のむくみ」が挙げられています。

月経前不快気分障害(PMDD : premenstrual dysphoric disorder )については、我が国には正式な定義はありませんが、PMSの精神症状が重症のタイプと考えられています。また、月経前増悪(PME:premenstrual exacerbation)とは、もともと有している精神疾患が月経前に増悪することをいいます。尚、PMSは婦人科で診療することが多いですが、PMDDとPMEは主に精神科で対応して頂くべき病態です。

我が国では成熟女性の約70~80%が月経前に何らかの心身の変調をきたし、PMSは20~40%、PMDDは1~5%にのぼるといわれています。このようにPMSは特別な病気ではなく、比較的身近な病気です。ただし、重症化しPMDDとなると、ご自身のQOL(生活の質)を下げ、周りの方との人間関係を破壊することもある、大変重大な疾患でもあります。

 

 

PMS/PMDDの原因

PMS/PMDDは月経周期と密接に関連することから、その原因に性ホルモンが関係していることは間違いありません。ただし、PMS/PMDDの方と正常女性との間で血中のホルモン値に差がないことも知られています。また、セロトニンという幸せを感じる脳内伝達物質の関与や、生活環境、精神的・身体的ストレス、ネガティブな主観的健康観(「自分は不健康である」と思うこと)の影響など、PMS/PMDDの原因には多くの因子が複雑に絡み合っているようです。

 

 

PMS/PMDDおよびPMEへの対応(薬物療法以外)

(1) 「月経周期に関連する心身の不調」であることの認識

ある研究によると、「心身の症状」と「月経」を日々記録し、それらが関連していることを認識しただけで、PMSの症状が軽快したケースもあったとの事です。「月経周期に関連する心身の不調」という事実がわかれば、あらかじめ月経前に心構えができます。そのことが安心に繋がったのかもしれません。
また、PMEの方も、月経前に体調が更に悪化することがわかれば、かかりつけの精神科医の先生にお伝えして、適切に対応して頂くことが可能になります。

 

(2) 生活習慣の見直し・ストレスの軽減

女子大学生対象のある研究によると、PMSの症状が強い方は朝食を欠食する傾向があるとの事です。また、精神的ストレスが、症状の悪化要因であることも知られています。したがって、生活習慣を見直し、ストレスを軽減することがPMS/PMDD対策にはとても大切です。
栄養バランスのとれた食生活に心がけ、適度な運動を習慣化し、良質な睡眠を確保することは、生活習慣病と同様にPMS/PMDD、PMEの予防・改善に繋がると思われます。

 

 

多くの女性がPMS/PMDDに苦しんでいますが、世間的にはあまり認知されていないようです。特に男性の場合、理解してない方がほとんどではないでしょうか。
月経前に原因不明の体調不良に悩まれている方は、まず日記を書いて月経と症状との関連を把握し、生活習慣を見直すところから始めましょう。