院長コラム

子宮内膜症に対するホルモン療法の副作用に用いる漢方薬

子宮内膜症は月経痛、性交痛などをきたす疾患で、性成熟期女性の約10%にみられ、不妊の原因となることが知られています。
治療法として、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)や黄体ホルモン製剤(ディナゲスト錠など)を用いたホルモン療法が第一選択となっています。
しかし、これらの治療により様々な副作用が現れることがあり、その対処に悩むことも少なくありません。
今回は、子宮内膜症に対するホルモン療法の副作用に用いる漢方薬について、「女性診療で使えるヌーベル漢方」(メディカ出版)を参考にお伝えします。

 

浮腫(むくみ)

LEPに含まれる黄体ホルモンの種類によっては、浮腫をきたすことがあります。また、ディナゲスト錠も頻度は多くはありませんが、浮腫がみられることがあります。
浮腫とは水分がうっ滞している状態であり、水分の流れを整える作用を持つ「当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)」の併用が勧められています。
尚、「当帰芍薬散」は月経困難症に対して適応があるため、日頃から月経前にむくみやすい方の場合、ホルモン療法を行う前から当帰芍薬散を開始してもいいかもしれません。

 

不正出血

LEP、ディナゲスト錠のどちらのホルモン剤にもみられる副作用は、不正出血です。
通常は数か月で軽減しますが、出血の増量や長期間持続する場合には止血剤を用いることがあります。
漢方薬としては、止血作用のある「キュウ帰膠ガイ湯(キュウキキョウガイトウ)」が勧められています。この漢方薬は、月経痛を軽減させる生薬も含まれているため、月経困難症に対する効果も期待できます。
ただし、「キュウ帰膠ガイ湯」は「痔出血」に対してのみ保険適応となります。

 

低エストロゲン症状

ディナゲスト錠1.0㎎を用いると、エストロゲンの分泌が抑制され、ホットフラッシュ、動悸、抑うつ、不安感など低エストロゲン症状(更年期症状様)をきたすことがあります。
身体的な症状が強ければ「当帰芍薬散」「桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)」、精神症状が強ければ「加味逍遙散(カミショウヨウサン)」「加味帰脾湯(カミキヒトウ)」、抑うつ症状のみでホットフラッシュがなければ「帰脾湯(キヒトウ)」が勧められています。

 

子宮内膜症に対するホルモン療法は非常に有用です。
ただし、長期にわたり、生活に支障をきたすような副作用に悩まされることもあります。
当院では漢方薬を利用して、できるだけ生活の質を落とさないよう、対策を考えています。