院長コラム

Rh(D)抗原が陰性の妊婦さんの対応

Rh(D)抗原陰性(いわいるRhマイナス)の女性が妊娠し、胎児がRh(D)抗原陽性(いわゆるRhプラス)の場合、妊娠期間及び分娩後、様々な注意が必要になります。
今回は「産婦人科診療ガイドライン産科編2020」(日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会編)を参考に、当院におけるRhマイナス妊婦さんの対応について説明します。

 

 

妊娠9週頃

当院では妊娠9週頃、妊婦さん全員に対して妊娠初期血液検査を行っております。その検査項目の中には「血液型(ABO型・Rh型)」「不規則抗体(間接クームス検査)」が含まれています。

まず、血液型の検査によりRhプラスかマイナスかを確認します。Rhマイナスであることが判明しましたら、不規則抗体の有無を確認します。もし、不規則抗体のうち、抗Rh(D)抗体が陽性であった場合は、すでにRh(D)抗原に感作されていることを意味しています。抗Rh(D)抗体は胎盤を通過し、胎児の赤血球を攻撃するため、抗Rh(D)抗体陽性の妊婦さんはハイリスク妊娠として、国立成育医療研究センターなどの高次施設へ紹介します。

Rhマイナスの妊婦さんで、抗Rh(D)抗体が陰性の場合は、まだRh(D)抗原に感作されておらず、リスクが低いため引き続き当院で健診を進めます。

 

 

妊娠26週頃

妊娠26週頃、2回目の「抗Rh(D)抗体検査」を行います。もし、2回目の検査で陽性となってしまったら、妊娠初期から妊娠26週までのどこかの時点で感作されたことを意味し、抗Rh(D)抗体の胎児への影響を考え、やはりハイリスク妊娠として高次施設へ紹介します。

 

 

妊娠28週頃

妊娠26週頃の検査で抗Rh(D)抗体が陰性であることが確認できましたら、妊娠28週頃に「抗D免疫グロブリン」を母体に筋肉注射します。実は、Rh(D)抗原への感作リスクは妊娠28週以降に上昇することが知られています。そこで、この時期に抗D免疫グロブリンを投与するとで、仮に母体の中にRh(D)抗原が入ってきたとしても、その抗原に感作し自ら抗Rh(D)抗体を作り出す前に、抗D免疫グロブリンがRh(D)抗原を中和してくれます。その結果、母体では抗Rh(D)抗体が作られませんので、胎児へのリスクを抑えることができます。

 

 

分娩直後・分娩後72時間以内

分娩直後、児の血液型(Rh型)を臍帯血で調べて、Rhプラスであることを確認します。また、母体血で3回目の「抗Rh(D)抗体検査」を行います。もし、母体血の抗Rh(D)抗体が陽性であった時には、抗体価(抗体の強さ)を調べます。妊娠28週に接種した抗D免疫グロブリン注の影響で、抗Rh(D)抗体が陽性になる確率が10~20%といわれています。しかし、その場合の抗体価は通常低いため、感作によるものか、注射によるものかを抗体価で鑑別します。

その結果、抗体陰性または抗体価低値、あるいは検査結果が分娩後72時間以内に判明しない場合は、次回の妊娠のことを考えて、分娩後72時間以内に「抗D免疫グロブリン」を母体に筋肉注射します。もし、分娩に伴うRh(D)抗原の感作をそのままにして、抗D免疫グロブリンを注射しないでいると、しばらくして抗Rh(D)抗体が作られてしまいます。すると、次回妊娠した際、胎児に悪影響を与える可能性が出てきてしまいます。

 

 

日本人ではRhマイナスの頻度は約0.5%といわれています。非常に少ないケースですが、もしRh(D)抗原に感作された場合は、胎児水腫や胎児貧血など、胎児に重篤な影響を及ぼします。
そのため当院では、高次施設との病診連携およびガイドラインに準じた対応により、安全な周産期管理に心がけています。