院長コラム

黄体ホルモン製剤による不正子宮出血に対する漢方療法

月経困難症や子宮内膜症に対する治療薬として、黄体ホルモン製剤である「ディナゲスト錠」「ジエノゲスト錠」が広く使用されています。
比較的副作用の少ない薬剤ですが、子宮出血をきたすことが少なくありません。
今回は、黄体ホルモン製剤による不正子宮出血に対する漢方療法について、「産科と婦人科 2023年1月号」を参考に、情報共有したいと思います。

 

当院での主流「芎帰膠艾湯(キュウキキョウガイトウ)」

 

止血効果で有名な漢方薬に「芎帰膠艾湯」があります。保険病名(ツムラ)としては「痔出血」となりますが、婦人科領域では過多月経、不正性器出血に対する止血目的で使用することが多い薬剤です。
以前から当院でも処方していましたが、昨今の世界情勢により止血剤「トランサミン錠」が出荷制限されている中、使用頻度が高くなっています。
この漢方は本来、虚弱体質、やせ型、活動性が消極的な“虚証”といわれている方が対象になります。
ただし、これまで当院では厳密に体質・体格を評価せず、「ディナゲスト錠」「ジエノゲスト錠」による不正性器出血に対して、第一選択薬として処方していました。そのため、多くの方には有効でしたが、中にはあまり効果が現れない方もいらっしゃいました。

 

新たな選択肢「黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)」

 

「産科と婦人科 2023年1月号」に、黄体ホルモン製剤による不正子宮出血と黄連解毒湯に関する研究報告が記載されていました。
それによると、芎帰膠艾湯で子宮出血が改善されなかった方が、黄連解毒湯で止血された方が多くみられたとのことです。
特に、体力があり、活動性も活発な“実証”と言われている方、虚証と実証の間の体質である“中間証”といわれている方に対する効果が高い、との結果でした。
また、効果が現れるまでの期間として、服用して1週間から1か月間のことが多かったようです。

 

月経困難症・子宮内膜症に対して「ディナゲスト錠」「ジエノゲスト錠」は非常に有用な薬剤です。
本来であれば長期間服用して頂く必要がありますが、残念ながら不正出血のために、途中で服用をやめてしまう方もいらっしゃいます。
今後当院では、比較的体力が低下している方には「芎帰膠艾湯」、比較的体力がある方には「黄連解毒湯」を軸に、不正性器出血を管理していこうと考えています。