院長コラム

閉経前に両側卵巣を摘出された方は、エストロゲン補充療法の検討を

子宮筋腫などの良性疾患で子宮全摘を行う際、特に付属器(卵巣や卵管)に異常がなくても両側付属器切除(BSO)を行うことがあります。その目的は、将来的に起こるかもしれない卵巣がんの予防にあります。
しかし、BSOのデメリットも大きいことがわかってきました。
今回は、BSOの影響と対応策について、「日本女性医学会雑誌」の記事を中心にお話します。

 

 

BSOのがんに対する影響

卵巣がんに関しては、予防的に両側卵巣を切除するため、リスクはほぼ0%にまで低下します。
また、女性ホルモンが関与している乳がんに関しても、その予防効果は認められています。
ただし、全てのがんに関しては、BSOを施行することにより、むしろ死亡率が増加するとの報告もあります。

 

 

BSOの心血管系に対する影響

卵巣から分泌しているエストロゲンには、動脈硬化を抑制する作用があります。BSOにてエストロゲンが欠乏すると、動脈硬化が発生しやすくなり、心筋梗塞などの心血管疾患のリスクが増加するとの報告があります。
特に、50歳未満のBSOはリスクが高くなるため、心血管疾患予防のためには卵巣温存が望ましいといわれています。

 

 

BSOの認知機能に対する影響

エストロゲンは神経細胞に対して保護的に作用しており、49歳未満のBSOにより認知機能が低下するとの報告があります。
その一方で、BSO後のエストロゲン補充療法により認知機能低下を減少させるとの報告もあります。
いずれにせよ、認知機能に対してもBSOは悪影響を及ぼしており、BSO後はエストロゲン補充療法が勧められています。

 

 

BSOの生命予後に対する影響

50歳未満のBSOで術後エストロゲン補充療法をしないと、死亡リスクが増加するといわれているため、少なくとも50歳まではエストロゲン補充療法が必要であると考えられています。

 

 

卵巣がん予防には卵管切除術

最近の研究で、ある種の卵巣がんの発生に卵管が大きく関与することが明らかになってきました。アメリカでは子宮全摘術の際、卵巣がん発生予防として両側卵管切除術を行うことが広まっているようです。
卵巣を温存しながら、将来の卵巣がんを予防するこの方法は、今後日本でも一般的術式になるかもしれません。

 

 

子宮全摘術+BSO後はエストロゲン補充療法を

様々な女性のヘルスケアの観点からは、可能な限りBSOは避けることが望ましいといえます。もし、50歳未満にBSOされた場合や、50歳以上でBSOされて更年期障害や骨量減少傾向が認められた場合は、(禁忌でないならば)術後早々からエストロゲン補充療法を開始した方がいいでしょう。

 

 

当院では、内服薬であるジュリナ、テープ剤であるエストラーナ(2日に1枚)、ゲル状のディビゲル、ル・エストロジェルといったエストロゲン製剤から、個々に合った製剤を選択し使用しています。
脂質代謝・骨代謝なども含めてBSO後のヘルスケアを行っていますので、是非お気軽にご相談下さい。