院長コラム

更年期以降、エストロゲン減少に伴う症状はどのように変化するのか?

性成熟期から更年期にかけて、エストロゲンという女性ホルモンの分泌が減少しますが、それに伴い様々な症状が出現します。
今回は、「女性医学ガイドブック 更年期医療編 2014年度版」などを参考に、エストロゲン減少に伴う身体的・精神的症状が、加齢に伴いどのように変化するのかを説明します。

 

 

エストロゲンの作用

卵巣にある卵胞(卵子を入れている袋)からエストロゲンは分泌され、全身に様々な影響を及ぼしています。

○ 子宮への作用:子宮内膜を増殖させて、受精卵が着床しやすくします。

○ 乳房への作用:乳線組織を増殖させます。

○ 外陰腟への作用:外陰腟を潤わせ、腟内の善玉菌を増やします。

○ 骨への作用:骨を増やし、骨密度を高めます。

○ 皮膚への作用:コラーゲンを増やし、肌の潤いを保ちます。

○ 中枢神経への作用:脳の神経細胞などを保護します。

○ 血管への作用:動脈硬化にならないように、血管内皮を保護します。

○ 肝臓(脂質代謝)への作用:善玉コレステロール(HDLコレルテロール)を増やし、悪玉コレステロール(LDLコレステロール)を減らします。

この他、全身への様々な働きによって、エストロゲンは女性の心と体を守っています。

 

 

エストロゲン欠落症状の加齢による変化

このように、エストロゲンは全身の組織に影響を及ぼしているため、エストロゲンが減少すると様々な症状(エストロゲン欠落症状)が認められます。しかも、40歳頃から加齢に伴い、出現する症状も変化します。

 

○ 40~50歳前後:月経異常

40歳代から加齢とともに、卵巣機能が徐々に低下します。一時的にエストロゲンの分泌量が増加し、経血量が増えて月経が頻発する時期もありますが、次第にエストロゲンの分泌量が減少し、それに伴い経血量も減少し、月経の間隔も空いて、そのうち無月経に至ります。

 

○ 40歳前半~50歳後半:自律神経失調症状

40歳前半からエストロゲンの分泌が減少し始めると、ホットフラッシュ(のぼせ)、発汗、冷え、動悸、疲労感、頭痛、肩こり、めまいなどの、いわゆる更年期症状(自律神経失調症症状)が認められるようになります。通常は、閉経前後の数年間が最も症状が強く、50歳代後半になると次第に軽減します。

 

○ 40歳後半~60歳頃:精神神経症状

更年期症状の中でも、不眠、不安、憂うつ、いらいら、記銘力低下といった精神神経症状は、自律神経失調症状と同時期か、やや遅れて出現するといわれています。エストロゲン欠乏による精神神経症状の多くは60歳頃までに軽快しますが、中には認知症に移行する場合もあります。

 

○ 50歳前半~:泌尿生殖器の萎縮症状

萎縮性腟症、外陰部掻痒症・疼痛、外陰部灼熱感・乾燥感、性交痛、尿失禁などの泌尿生殖器の萎縮症状は50歳頃からみられ、加齢とともに症状が増強します。

 

○ 50歳中盤~:心血管系疾患・脂質異常症・骨粗鬆症

エストロゲンによって守られていた血管ですが、閉経以降エストロゲン分泌が減少すると動脈硬化になりやすくなります。また、善玉コレステロールが減少し、悪玉コレステロールが増加するため、動脈硬化のリスクが更に高まります。その結果、脳卒中や虚血性心疾患などの重大な疾患の罹患率が増えます。

また、閉経まではエストロゲンにより骨密度は維持されていましたが、閉経後はエストロゲンの分泌低下により骨が溶けてしまい、骨粗鬆症のリスクが高まります。

 

 

閉経とは月経が永久に停止した状態をいい、通常1年以上の無月経を指します。
しかし、閉経になる前からエストロゲンの減少は始まっており、様々な影響を及ぼしています。
月経が不順になり、生活に支障をきたすような更年期症状がみられましたら、是非婦人科を受診しましょう。