院長コラム

更年期の手指の関節痛

先日、「関節の痛みと女性ホルモン研究会」に参加してきました。講演会では、関節リウマチに詳しい先生や乳がん治療中の関節痛を診察されている乳腺外科の先生など、日頃接すことがあまりない先生方のお話を伺うことができました。
今回は、産婦人科開業医の立場から、更年期あるいは乳がん治療中の手指関節痛にどのように対応すべきか、についてお話します。

 

 

更年期と関節痛

更年期は女性ホルモン(エストロゲン)の減少に伴い、のぼせ、発汗、抑うつ、不安など様々な更年期障害をきたすことがありますが、肩凝り、腰痛、関節痛などの筋肉関節症状がみられることも少なくありません。関節痛の中でも、特に朝の手指のこわばりについては、更年期障害の関節痛か、関節リウマチかの判断が難しいケースがあります。

関節リウマチは自己免疫疾患であり、強い炎症反応を示すことが特徴であり、治療しなければ進行性に悪化します。一方、更年期障害としての関節痛は炎症反応を認めず、動かし始めはこわばりや痛みがありますが、動かしているうちに次第に痛みが軽快します。

通常、手指の関節痛やこわばりがみられた方は、整形外科やリウマチ科を受診します。精査で関節リウマチや他の整形外科的疾患(変形性関節症など)が否定された場合、あるいは治療の効果がなかった場合、更年期障害の鑑別のために婦人科を受診される方が多いと思われます。

 

 

女性ホルモン補充療法の有用性

関節の表面を覆っている軟骨が磨り減ると関節痛をきたします。軟骨にはエストロゲンの受容体があり、エストロゲンが減少すると軟骨が減少し、痛みや腫脹の原因になります。

もし、エストロゲン低下が原因の関節痛であれば、エストロゲンを補うホルモン補充療法(HRT)により関節痛が緩和する可能性があります。HRTの関節痛への効果に関する研究報告はあまり多くはありませんが、臨床では実際にHRTで関節痛が軽快する例を少なからず経験します。

 

 

乳がんに対するホルモン療法の副作用

乳がんの術後、エストロゲンを減少させるためにホルモン療法が行なわれることがあります。その副作用として、いわゆる更年期障害がみられますが、手指の関節痛もその一つです。

通常の閉経後であればHRTを行うことができますが、乳がん術後の方には行なうことができません。そのため、関節の組織に対しては女性ホルモンのように作用し、乳腺の組織に対しては増殖させない薬剤が必要になります。それが「エクオール(エクエル)」です。

エクオールとは、大豆イソフラボンが腸内のある酵素の働きにより変化した物質で、エストロゲン様の作用を有します。しかし、そもそも日本人の約半分は、その変換酵素を持っていません。もし、変換酵素を持っている方でも、毎日多量の大豆を摂取することは現実的に難しいでしょう。そこで、変換酵素を持っている方も持っていない方も、健康補助食品として「エクオール(エクエル)」の継続的な服用が勧められます。

エクオールは子宮内膜と乳線組織以外の組織に対して、エストロゲン様の働きを示します。したがって、各種更年期障害だけでなく、手指の関節痛の改善も期待できます。

ただし、乳腺外科医の中には、乳がん治療中の「エクオール(エクエル)」使用には慎重あるいは反対される先生もいらっしゃいます。当院では患者さまの乳腺科主治医がエクオール(エクエル)内服を許可される場合に限り、積極的に使用したいと考えています。

 

 

HRT,エクオール以外の対応策

ホルモン剤が使用できない場合、漢方療法を行なうことがあります。更年期障害にも適応がある「五積散」は当院でも頻用しています。関節痛の代表的な漢方薬「ヨク苡仁湯」も使用することがあります。その他、「桂枝加朮附湯」は朝の手のこわばりに効果があり、「麻黄湯」などは関節リウマチなどに適応があります。

更年期の手指の関節痛は、動かしていくうちに軽快することから、ご講演された乳腺外科の先生の施設では運動療法を行い、成果が上がっているとの事でした。

 

 

手指の関節痛を更年期障害の一つとして考え、HRTや漢方療法をしばらく行なっていても症状が改善しないことがあります。
そのような時は、整形外科や膠原病・リウマチ科専門医へ紹介することがあります旨、ご了承下さい。