院長コラム

当院における胎児発育不全の診断と対応

妊娠中の胎児推定体重が、該当週数の一般的な胎児体重と比較して、明らかに小さい場合を胎児発育不全(FGR)といいます。
FGRは出生時も低体重になるリスクが高いため、妊娠中のFGRのスクリーニングや取り扱いは非常に大切です。
今回、「産婦人科診療ガイドライン産科編2020」を参考に、当院における胎児発育不全の診断と対応について説明します。

 

FGRの診断

当院では妊婦健診の際、毎回胎児推定体重を計測しています。その結果、基準値を下回る(-1.5SD以下)ことがあれば後日再検し、それでも-1.5SD以下であれば、「FGR疑い」と判定しています。
また、推定体重は基準値を上回っていても、頭部の横径、腹囲、大腿骨長のどれかが基準値を大きく下回っていた場合は、FGR疑いに準じた対応を行います。

 

FGRが疑われた場合の対応

FGRの約10%には形態異常を伴うといわれています。そのため、FGRが疑わしい胎児に対して、まず当院で明らかな形態異常がないかを確認します。
そこで、心奇形などの異常が疑われた場合は、高次施設の胎児診療科へ紹介致します。
当院での超音波検査で胎児形態異常が明らかでない場合は、FGR専門外来へ紹介致します。
帰省分娩される方は妊娠週数にかかわらず、分娩施設に早めにお戻り頂いております。
ちなみに、当院での分娩予定の方は、国立成育医療研究センター胎児診療科またはFGR外来へ紹介しております。尚、胎児形態異常のないFGRの場合、専門外来で胎児発育に問題ないことが確認されれば、当院での分娩も可能です。

 

FGRの母体側危険因子と対策

FGRには様々な要因が知られています。もし、母体側の危険因子について除去可能なものがあれば、取り除く必要があります。
喫煙(受動喫煙も)は明らかな危険因子であるため、完全禁煙は必須です。
飲酒は少量(1日ビール1~2杯)でもFGRの危険が上昇するため、完全禁酒も必要です。
また、妊娠前のやせ、母体の体重増加不良もFGRの危険因子です。妊娠前がやせの方は12~15㎏、標準の方では10~13㎏の体重増加を目指して頂きます。

 

マルチビタミン・ミネラルのサプリメントを妊娠期間通じで服用することは、胎児発育にも有用といわれています。
また、当帰芍薬散という漢方薬が、胎児発育に関連しているとの報告もあります。
当院では、妊娠中の「エレビット」の服用を積極的に進め、FGRの傾向があらわれた際には、当帰芍薬散を早めに処方することがあります。
FGRについて不明な点も多いですが、母児の健康のため、当院でできる対策を進めながら、高次施設と適切に連携して参ります。