院長コラム

当院における母体・新生児の救命救急

本日9月9日は「救急の日」。全国各地でAED(自動体外式除細動器)の使い方など、心肺蘇生法の講習会が開かれているかと思います。
当院でも、看護スタッフはもちろん、事務スタッフ、栄養士スタッフ全員が心肺蘇生できるように、年に1回、シミュレーターを用いたトレーニングをしています。
今回は、主に妊産婦さん、新生児の救命救急について説明します。

 

 

一次施設である当院の役割

当院は産婦人科医一人に助産師10数名の小規模クリニックであり、マンパワーも薬品・機材も限られています。しかし、分娩中や分娩後に、母体・胎児・新生児の状態が急変することも決して珍しくありません。

そのような状況で、一次施設である当院に課せられた責任は、

①様々な可能性を考えて、緊急事態にならないように予防する
②異常所見を早期に発見し、それ以上悪化しないように的確な初期治療を行う
③状態が増悪し始めたら、できるだけ早く高次施設へ救急搬送する

の3点であると思います。

 

 

① 予防

当院では、リスクの少ない妊婦さんの分娩を取り扱っております。したがって、妊娠中・分娩時・産褥期にトラブルが生じる可能性が高い妊婦さんには、より安心できる高次施設での分娩をあらかじめ紹介しています。

当院で分娩予約を取られて、リスクが少なく順調に分娩が進行すると思われる妊婦さんでも、突然の血圧上昇や胎盤・胎児機能不全、分娩時多量出血などをきたすことがあります。

そこで当院では、妊婦さん全員に分娩前から点滴を留置し、直ちに補液や薬物投与ができるように準備しています。また、分娩監視装置を連続装着し、母体・胎児に何かあればすぐに発見・治療ができるようにしております。

 

 

② 初期治療

陣痛期・分娩時はもちろん、分娩後も母体・新生児に変わりがないかどうか、常に助産師がチェックしています。

もし、産後の出血が多くなってきた時は、その原因を考え、子宮の収縮不良が認められた場合は、子宮収縮剤を追加し、補液量も増量し、急速に点滴します。

また、母体血圧の上昇が見られた場合は、反対に補液量を抑え、降圧剤の点滴投与で血圧をコントロールします。さらに、子癇発作という痙攣を予防・治療する目的でマグネシウム製剤を投与することもあります。

新生児に関しても、心拍数、呼吸状態、皮膚色、体温などに注意し、必要に応じて酸素投与や保育器での管理を行います。

もちろん、母体・新生児が心肺停止と判断した場合は、直ちに胸骨圧迫、人口呼吸を行い、特に母体の場合は薬物投与やAEDを施行しつつ、高次施設への搬送の手配を行います。

 

 

③ 救急搬送

初期治療にもかかわらず、母体・胎児・新生児の状態が悪化した場合、東京都周産期搬送ルールに則って高次施設へ救急搬送致します。

母体の脳血管障害、妊娠高血圧症候群重症型、出血性ショック、意識障害・痙攣発作など、緊急に母体救命処置が必要な場合は、通称「スーパー母体救命」システムを利用します。

早産期に胎児機能不全の徴候がある場合や常位胎盤早期剥離が疑われるなど、胎児の生命に危険が生じている可能性がある場合は、胎児救急搬送システムを利用します。

出生後、新生児に問題があり、緊急で新生児科医の診察・処置が必要と判断した場合はNICUを有する高次施設へ新生児搬送致します。

 

 

当院では院長をはじめ、複数の助産師が「新生児蘇生法『専門』コース」「日本母体救命システム普及協議会ベーシックコース」を受講し、認定を受けています。
これからも、更に救急の知識や技術を習得し、より安心・安全な周産期管理を目指して参ります。