院長コラム

当院における妊娠初期(妊娠12週未満)の流産手術・人工妊娠中絶手術

以前から当院では、妊娠12週未満の流産手術や人工妊娠中絶手術に際し、金属性の吸引管による「電動吸引法」を行なって参りました。
しかし最近では、より合併症が少ない「手動真空吸引法」が学会として推奨され、今年から当院でも取り入れるようになりました。
今回は、当院における妊娠初期の流産手術・人工妊娠中絶手術について、説明致します。

 

 

流産手術・人工妊娠中絶手術の前処置

当院では流産手術または人工妊娠中絶手術を受ける方に対し、食事を召し上がらないで朝9時にいらして頂くようにお話しています(飲水は可)。

当日の朝、内診、経腟超音波検査のあと、ラミセル(3mm:やや硬めの特殊なスポンジ)を子宮頚管内に挿入します。挿入後3-4時間で子宮頚管が少しやわらかくなり、拡張しやすくなります。ラミセル挿入時は、やや違和感はありますが、ほとんど痛みはありません。

手術30分前には、前投薬(硫酸アトロピン1アンプル筋注)を行い、手術室に入った後、点滴を入れます。当院での麻酔は、プロポフォールによる静脈麻酔を用いており、眠っている間に手術を行ないます。術中は酸素マスクで酸素を吸って頂き、血中酸素飽和度を連続計測、血圧を適宜計測しています。

手術を始めるに当たり、朝挿入したラミセルを抜去し、ヘガールという金属性の頚管拡張器を用いて少しずつ頚管を拡張していきます。

 

 

「電動吸引法」の場合

頚管拡張に続き、金属性の吸引管を頚管から子宮内に挿入し、電動の吸引器につないで子宮内容を吸引します。
妊娠10週以降で、妊娠組織の量が比較的多い時には、吸引管による処置の前後に、胎盤鉗子で子宮内容を取り除くことがあります。
最後に、キュレットという細い匙で軽く掻爬し、子宮内に明らかな妊娠組織の遺残がないことを確認します。

 

 

「手動真空吸引法」の場合

頚管拡張に続いて、柔らかなプラスティック製の吸引管を頚管から子宮内に挿入し、用手的に陰圧状態になったシリンジ(大きな注射器のような器具)を接続します。陰圧を利用して、吸引管から子宮内容を吸引します。
この操作を3~5回ほど行い、ほとんど吸引できなくなった時点で終了です。

 

 

「電動吸引法」と「手動真空吸引法」の使い分け

一般に、子宮内膜損傷は「電動吸引法」よりも「手動真空吸引法」の方が軽いと言われており、子宮内感染の頻度も「手動真空吸引法」の方は少ないようです。

しかし、WHO(世界保健機関)の報告では「手動吸引法は妊娠9週未満の妊娠において痛みが少ない手技でるが、妊娠9週を超えると手技上の困難が増える可能性がある」との事です。

当院では機材等の関係で、流産手術・人工中絶手術問わず、妊娠週数が9週未満の場合は「手動真空吸引法」を、妊娠9週以降の場合は「手動真空吸引法」を行なっています。尚、手術時間はどちらも5~10分程度であり、術中の出血量や術後の疼痛や出血などについても、両者に明らかな差はありません。

 

 

「手動真空吸引法」は子宮内膜にやさしい新しい手技で、今後更に増えていくと思いますが、子宮内容が多い場合は「電動吸引法」の方が有用であるなど、どちらもそれぞれの良さがあります。
当院では、それぞれの特長を踏まえて、患者様に合った手術方法を選択して参ります。