院長コラム

当院での乳腺炎に対する薬物療法

授乳中の乳腺炎には、乳汁うっ滞による「うっ滞性乳腺炎」と細菌感染による「化膿性乳腺炎」があります。
当院では産後の乳房トラブルに関して、堤式乳房マッサージ法認定者(師長を含む4名)による母乳外来にて管理していますが、必要に応じて薬物療法を行っています。
今回は、うっ滞乳腺炎および化膿性乳腺炎に対する薬物療法について説明します。

                             

うっ滞性乳腺炎の薬物療法

乳腺内の乳汁分泌が亢進すると乳房は張ってきますが、乳汗の開通不全や乳汁分泌過多などが重なると乳管内の乳汁がうっ滞します。
この状態が続くと乳腺に炎症が生じ、発赤、腫脹、疼痛などが認められるようになります。これをうっ滞性乳腺といい、通常は局所の冷却、搾乳、乳房マッサージなどの管理で改善します。ただし、症状が強い場合や長引く場合は、以下に示す薬物療法を行っています。

  • 葛根湯5g/日 7日間

葛根湯は消炎鎮痛作用があり、乳房の腫脹や頭痛に効果があるといわれています。また、「乳腺炎」で保険適応があります。
通常は7日間の服薬で軽快しますが、症状が改善しない場合は化膿性乳腺炎に移行した可能性も検討します。

  • ロキソニン屯服

葛根湯だけでは乳房痛が軽快しない場合、屯用として消炎鎮痛剤を処方します。
アセトアミノフェン(カロナール)を用いることもありますが、鎮痛効果が弱い場合もあるため、当院では主にロキソニンを処方しています。

  • ゲンタシン軟膏

乳頭亀裂、白斑などがみられる場合は、抗生剤が含まれているゲンタシン軟膏を1日数回塗布して頂く事もあります。

 

化膿性乳腺炎の薬物療法

うっ滞性乳腺炎が継続し、乳頭亀裂や乳管口などから表在性の細菌が侵入すると、細菌が増殖して化膿することがあります。これを化膿性乳腺炎といい、局所的な発赤、圧痛、硬結に加えて、悪寒、39度前後の発熱など全身症状がみられます。
さらに炎症が進行すると、膿がたまることがあります(膿瘍形成)。その場合、当院で穿刺排膿を行うこともありますが、症状によっては乳腺専門医へ紹介します。

  • 抗生剤:メイアクト3T/日 5~7日間

化膿性乳腺炎の起因菌として黄色ブドウ球菌、連鎖球菌などが多いことが知られています。当院では、これらに有効な抗生剤で、比較的耐性菌を生じにくいといわれているメイアクトを5~7日間処方しています。ただし、抗生剤服用前に行っている乳汁培養・感受性検査の結果、メイアクトが無効で乳腺炎症状が改善しない時には、感受性のある抗生剤に切り替えています。

  • ロキソニン3T/日 5~7日間

化膿性乳腺炎の場合、発熱や強い疼痛により心身の消耗が激しいため、通常抗生剤にロキソニンを併用しています。

 

授乳婦さんで37.5度以上の発熱がみられ、感冒床状はなく、乳房の発赤・腫脹・疼痛があれば乳腺炎の可能性が高いと思われます。
ただし、新型コロナウイルス感染の可能性も完全には否定できないため、直接ご来院されず、まずはお電話を頂きますよう、宜しくお願い申し上げます。