院長コラム

妊婦さん・授乳婦さんが使用できる抗インフルエンザ薬は?

世田谷区内でもインフルエンザによる学級閉鎖が出始めており、これから更に流行することが予想されます。
昨今の行政を中心とした啓発活動により、インフルエンザワクチンを摂取される妊婦さんが増えている印象がありますが、ワクチン接種はあくまでも重症化の予防目的であり、ワクチン接種したからといって、インフルエンザに感染しない、というわけではありません。手洗い・うがい、マスク着用を徹底しても感染してしまうことがあります。
今回は、妊婦さん・授乳婦さんが使用できる抗インフルエンザ薬についてと、今年認可された「ゾフルーザ」にも少し触れたいと思います。

 

 

治療として「タミフル」、「リレンザ」、「イナビル」は可能

○ タミフル

1日2回5日間服用する内服薬で、服用のしやすさ、安全性のデータの蓄積という観点で第一選択薬に挙げられます。
一方で、タミフル耐性ウイルスが問題になっています。

○ リレンザ

1日2回、5日間使用する吸入薬で、胎盤を通過して胎児に影響を及ぼす可能性は大変低いといわれています。
 一方、妊娠末期で増大子宮による胸部圧迫がみられる妊婦さんにとって、吸入薬は使用しづらいといわれています。

○ イナビル

吸入薬ですが、リレンザと異なり1回のみの投与であるため、妊婦さんにも使いやすいと思います。
ただし、タミフルとリレンザと比べてみると新しいため、情報の蓄積は十分でないと言われています。

「タミフル」、「リレンザ」、「イナビル」はどれも妊婦さんにとって比較的安全に使用できます。あとはご本人と相談の上、発症48時間以内に薬剤を選んで、使用します。

 

 

「ゾフルーザ」について

「タミフル」、「リレンザ」、「イナビル」とは異なる機序でウイルスの増殖を抑える新しい薬剤です。発症から48時間以内に1回(20mg 2錠)服用するだけで効果を発揮します。診断されたらできるだけ早く服用することが望ましい、といわれています。

ただし、妊娠中の投与に関する安全性は確立しておらず、「治療上の有益性が危険性を上回ると判断される場合にのみ投与する」と添付文書に記載されています。また、「授乳婦に投与する場合には授乳を避けさせる」とも記載されています。

「タミフル」、「リレンザ」、「イナビル」の添付文書にも同様な記載がされていますが、これらはある程度歴史がある薬剤で、妊婦さんにも可能であり、授乳婦さんに使用したとしても、授乳を避ける必要はない、と言われています。一方、「ゾフルーザ」は新しい薬剤であるため、まだまだ使用例が少ない状況です。

したがって、現時点では妊婦さんや授乳婦さんに「ゾフルーザ」を使用することは控えた方が無難であると考えます。

 

 

予防的投与について

インフルエンザ患者と濃厚接触した場合のタミフルやリレンザ投与は70~90%の予防効果があるといわれています。薬剤耐性ウイルスの出現の可能性を考えて、広くルーチンに行うことは勧められていませんが、インフルエンザ発症により重篤化しやすい妊婦さんや分娩後2週間以内の褥婦さんに対しては、予防投与が勧められています。

当院では、ご主人やお子さんがインフルエンザに感染し、濃厚接触してしまった妊婦さんと褥婦さんに対しては、タミフル1日1錠10日間連続投与を行っています(院内処方・10割負担)。

インフルエンザを予防するためには、予防接種を行い、うがい・手洗いを励行し、外出時にはマスクを着用し、人混みをさけ、バランスのとれた食事を心がけ、十分に睡眠をとる、などが大変重要です。
そしてインフルエンザ患者と濃厚摂取をしたときは、早めに予防的投与を行います。
それでも症状が改善しない時には、抗ウイルス薬を発症48時間以内に使用しましょう。