院長コラム

“妊娠授乳関連骨粗しょう症”に注意

妊娠中は臍の緒を通じて、授乳中は母乳を通じて、お母さんから赤ちゃんにカルシウムが運ばれます。その結果、妊婦さんや授乳婦さんの骨量は低下することが知られています。
ほとんどの場合、お母さんの健康には影響を及ぼしませんが、稀に妊娠授乳関連骨粗しょう症となり、骨折をきたす場合があります。
今回は、「日本女性医学会雑誌2022年1月号」に掲載されていた論文を参考に、妊娠授乳関連骨粗しょう症、特に授乳期の骨代謝について、情報共有したいと思います。

 

授乳期の骨代謝について

授乳期は乳汁産生のため、プロラクチンというホルモンの分泌が増加します。プロラクチンには、脳下垂体からの卵胞刺激ホルモン分泌を低下させる作用があります。その影響で、卵巣からのエストロゲン(女性ホルモン)分泌も低下します。エストロゲンには骨量を増やす働きがあるため、エストロゲンが減少すると骨量が減少します。
さらに、赤ちゃんが乳頭を吸う刺激やプロラクチン濃度の上昇、エストロゲン濃度の低下など様々な影響により、「甲状腺ホルモン関連蛋白」という物質の産生が増加します。この物質は、赤ちゃんへたくさんのカルシウムを供給するため、お母さんの骨を溶かして、血液中のカルシウムを増加させる働きがあります。
このような理由から、特に授乳中のお母さんは骨量が減少することが知られています。

 

“妊娠授乳関連骨粗しょう症”と診断されたら

「分娩後、腰痛が長引くため整形外科を受診したところ、レントゲン検査で脊椎の圧迫骨折が認められ、初めて妊娠授乳関連骨粗しょう症と診断された」といったことが多いようです。
その場合は、まず卒乳し、お母さんから赤ちゃんへのカルシウムの移行を抑制する必要があります。ある報告では、卒乳のみで骨密度が10~20%改善したとのことです。
それに加え、カルシウムやビタミンDなどの栄養素を十分に摂取することが大切です。
また、状況に応じて鎮痛剤や骨粗しょう症治療薬などの薬物療法が必要なこともあります。

 

妊娠前からやせている方は要注意

ある程度骨に負荷がかからないと、骨は丈夫になりません。低体重であると骨にかかる負荷が小さいため、やせている方はそうでない方に比べて、骨量が少ない傾向にあります。
妊娠前からやせており、妊娠中の体重増加も少ない方は、妊娠授乳関連骨粗しょう症のリスクが高くなると言われています。
そのため、妊娠前からやせている方は、妊活の時点で体格の指標であるBMI(体重㎏÷身長m÷身長m)を18.5以上となるよう体重を増加させることをお勧めします。
また、妊娠中や授乳中だけでなく、妊娠前からカルシウム、ビタミンDなどを食事やサプリメントで積極的に摂取するようにしましょう。

 

妊娠授乳関連骨粗しょう症と診断されたら卒乳が必要です。
ただし、自己流の断乳は、乳腺炎などのトラブルを引き起こしがちです。
当院では母乳外来で、卒乳に向けたケアをしておりますので、是非ご利用下さい。