院長コラム

妊娠悪阻に対する薬物療法~漢方薬を中心に~

軽度の悪心・嘔吐、食欲不振であれば、休息や、少量頻回の食事摂取、水分補給などで対応しますが、食生活の工夫などでも改善しない悪阻に対しては、当院では漢方薬を第一選択として、薬物療法を行なっています。
今回は、「女性診療で使えるヌーベル漢方処方ノート」(メディカ出版)などを基に、漢方薬を中心とした妊娠悪阻に対する薬物療法について説明します。

 

 

○ 小半夏加茯苓湯(ショウハンゲカブクリョウトウ)

妊娠悪阻に対する漢方薬の中でも第一選択の薬であり、当院でも処方する事が多いのが小半夏加茯苓湯です。この漢方は以下の3つの生薬から構成されています。

・半夏(ハンゲ) :腸管の働きを促す作用
          嘔気を抑える作用
・茯苓(ブクリョウ):尿を増やす作用
           潰瘍を防ぐ作用
           胸のつかえをとる作用
・生姜(ショウキョウ):嘔気を抑える作用

通常、毎食前にそのまま服薬して頂きますが、嘔気・嘔吐が激しく、顆粒の服用が難しい場合には、水に溶かして少量ずつ服用して頂く事をお勧めします。その際、“お湯”ではなく“冷水”が望ましいといわれており、それを凍らせて口の中で溶かしながら飲んで頂いてもいいそうです。

 

 

○ 六君子湯(リックンシトウ)

妊婦さんに限らず、胃腸が弱い方に処方することの多い六君子湯ですが、小半夏加茯苓湯を構成している3つの生薬に加え、人参(ニンジン)・陳皮(チンピ)・大棗(タイソウ)といった胃の不調を助ける生薬が入っています。もともと胃腸が弱い上に、妊娠悪阻が重なってしまった方に処方すると、有用であるといわれています。

 

 

○ 抑肝散加陳皮半夏

悪阻が増悪する要因として、精神的なストレスが挙げられます。抑肝散加陳皮半夏には抗ストレス作用、精神安定作用のある陳皮(チンピ)、半夏(ハンゲ)、柴胡(サイコ)といった生薬が含まれています。上記の漢方の効果が弱い時に抑肝散加陳皮半夏を併用すると、症状が軽快することもあるようです。

 

 

○ 半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)

通常、半夏厚朴湯は咽頭部が塞がる感じ(ヒステリー球)を認める方に用いられ、不安神経症、神経性胃炎などに適応があります。小半夏加茯苓湯を構成している3つの生薬が含まれており、妊娠悪阻にも処方する事があります。半夏厚朴湯には錠剤のタイプもあるため、顆粒状の漢方薬が苦手な方には第一選択で使用することもあります。

 

 

当院では、漢方薬の服用でも症状が改善しない方や漢方薬の服用が苦手な方には、制吐剤であるプリンペラン錠を服用して頂いています。
また、嘔吐が激しく経口摂取ができない重症の場合には、脱水症・血栓症・脳症などを防ぐために、ビタミンB1、B6やプリンペラン注などを混注した点滴治療を行なっております。
悪阻症状が辛いときには我慢せず、是非受診して下さい。