院長コラム

妊娠中期~後期も葉酸・マルチビタミンサプリの摂取を続けましょう

二分脊椎などの神経管閉鎖障害の発生が母体の葉酸の摂取不足と関係していることは、一般の方の間でも少しずつ広まってきました。しかし、妊娠中期から後期にかけての様々な周産期合併症も葉酸不足が関係していることに関しては、医療関係者の間でもあまり知られていません。
先日開催されました日本医科大学産婦人科の先生による「サプリメントと周産期疾患」のご講演を基に、妊娠中期から後期にかけての葉酸・マルチビタミンのサプリメントの必要性について説明します。

 

 

葉酸が関係している主な周産期合併症

○ 後期流産・死産

妊娠12週以降、22週未満の流産を後期流産といい、絨毛膜羊膜炎や頚管無力症など主に母体側の原因が指摘されています。
また、死産とは妊娠12週以降、分娩前に胎児が亡くなってしまう状態をいいます。

○ 妊娠高血圧腎症

妊娠20週以降に高血圧(収縮期血圧140mmHg以上、または拡張器血圧90mmHg以上)が発症し、蛋白尿を伴う妊娠高血圧症腎症は、母児の生命を危うくする重篤な合併症(常位胎盤早期剥離・HELLP症候群など)を併発しやすいことが知られています。

○ 常位胎盤早期剥離

正常な位置にある胎盤が胎児娩出前に子宮壁から剥がれてしまう状態を常位胎盤早期剥離といいます。全分娩の約1%にみられ、低出生体重児、脳性麻痺や胎児・新生児死亡といった胎児・新生児への重篤な影響だけでなく、出血性ショック・子宮摘出・非常に稀ではありますが母体死亡など母体に対しても重大な事態を引き起こす可能性があります。

その他、胎児発育不全や早産についても葉酸の関与が指摘されており、これらの周産期合併症は、葉酸あるいはマルチビタミンのサプリメントを適正量摂取することにより、その発生頻度を低下させることができる、との研究結果が海外では数多く報告されています。

 

 

妊婦さんにとって葉酸あるいはマルチビタミンのサプリメントは必要不可欠

前述の周産期合併症、特に妊娠高血圧症腎症や常位胎盤早期剥離は胎盤の形成不全の存在が原因であるとも言われています。その胎盤の形成に特に欠かせないのが葉酸、ビタミンB6,ビタミンB12といったビタミンB群です。

しかし、妊娠12週頃まで葉酸・マルチビタミンのサプリメントを摂取していた方でも、その後は飲まなくても大丈夫だと、勝手に判断してしまい、妊娠12週以降は摂取しなくなってしまう方がいらっしゃいます。

また、妊娠前から妊娠初期にかけてサプリメントを摂っていなかったため、妊娠中期以降に摂取し始めても、もう手遅れだと早合点してしまい、結局分娩までサプリメントを一切摂取しない妊婦さんもいらっしゃいます。

もちろん妊娠1か月前から妊娠12週まで葉酸やマルチビタミンのサプリメントを摂取することは必要です。しかし、妊娠12週以降も分娩まで摂取し続けること、あるいは仮に妊娠初期に飲んでいなかったとしても、せめて葉酸の必要性に気付いた時点でサプリメントを摂取し始めることが何より大切です。

 

 

現在のところ、妊娠高血圧症腎症や常位胎盤早期剥離といった重篤な周産期合併症を完全に予防することは不可能です。確かに、妊娠期間通して葉酸・マルチビタミンのサプリメントをまじめに服用し続けていたとしても、周産期合併症が絶対に起こらないとはいえません。
それでも、海外での多くの研究結果でその効果が実証されている葉酸・マルチビタミンのサプリメントを服用し、少しでも周産期合併症の可能性を減らすことは、大変有意義な事です。
当院では葉酸サプリメントを販売していますが、それに限らず妊婦の皆さんには、妊娠期間通じて葉酸やマルチビタミンのサプリメントの摂取を強くお勧めします。