院長コラム

女性と脂質異常症

動脈硬化予防には脂質異常症の予防・治療が大切です。今回は、「日本医師会雑誌8月号」から、女性と脂質異常症についての記事を中心に説明します。

 

 

女性の脂質異常症・動脈硬化リスク因子の特徴

女性ホルモンであるエストロゲンは脂質代謝や血管内皮機能の改善など、多くの抗動脈硬化作用を有しています。したがって、閉経後または外科的に両側卵巣を摘出した後、エストロゲンは急激に低下するため、悪玉コレステロール(LDL-C)が上昇し、心筋梗塞など冠動脈疾患が上昇します。

また、喫煙や糖尿病も動脈硬化リスクであることは知られていますが、女性の方が男性よりも2倍以上悪影響を及ぼすといわれています。

 

 

脂質管理の目標値

「吹田スコアによる冠動脈疾患発症予測モデル」により、10年以内の動脈硬化性疾患の発症確率が2%以内を低リスク、2~9%を中リスク、9%以上を高リスクの3つに分類します。

一次予防としての脂質管理目標値は、低リスク・中リスク・高リスクそれぞれ、LDL-C:<160mg/dl・<140 mg/dl・<120 mg/dl、Nom-HDL-C《総コレステロール-善玉コレステロール(HDL-C)》:<190 mg/dl・<170 mg/dl・<150 mg/dlです。また、リスクによらず中性脂肪:<150 mg/dl、HDL-C:40 mg/dl以上となっています。

 

 

脂質異常症の管理法

もし脂質管理目標値をこえている場合、まず6ヶ月間の生活習慣の改善を行います。喫煙者には禁煙を指導することはもちろん、受動喫煙の回避も重要です。

肥満傾向の方には、栄養バランスを取りながら、不飽和脂肪酸やトランス脂肪酸などの摂取を控え、体重減量のために総エネルギー摂取量を抑える指導も必要になります。具体的には、肉の脂身や動物脂(牛脂、ラード、バター)を控え、大豆、魚、野菜。海藻、きのこ、果物、未精製穀類を取り合わせて食べる減塩した日本食パターンが推奨されます。

運動療法としては、速歩きやスロージョギングなどの中等度の強さの運動を1日合計30分以上、週3回以上(できれば毎日)を目指すようにします。

 

 

脂質異常症の治療

他の合併症がない中高年女性の、生活習慣改善でも軽快しない脂質異常症に対しては、ホルモン剤やスタチン製剤を使用します。

もちろん、禁煙・バランスのとれた食事・適度な運動習慣は引き続き継続しなくてはいけません。

 

 

妊娠と脂質代謝

妊娠中は生理学的にLDL-Cや中性脂肪は上昇しますので、スタチン製剤は必要ありません。むしろ、スタチンによる胎児奇形の発症リスクを考えると、妊娠前からスタチンを服用していた場合は、妊娠が判明した段階で速やかに中断する必要があります。

 

 

脂質異常症は動脈硬化を引き起こす重大な病気ですが、生活習慣を見直すことによって、ある程度予防することができます。
健康診断で脂質異常症を指摘されたら、医療機関を受診すると同時に、生活習慣を改善しましょう。