院長コラム

大きな手術前後の女性ホルモン製剤の使用について

女性ホルモン製剤のうち、エストロゲン製剤およびエストロゲンを含むホルモン製剤は、血栓症の発症リスクを高める可能性があります。
また、大きな手術(すべての腹部手術、45分以上の手術など)も、血栓症のリスク因子となります。
手術による安静、不動にエストロゲン製剤の影響が加わると、より血栓症のリスクが高まる可能性があります。
今回は、「低用量経口避妊薬、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(OC・LEP)ガイドライン2020年度版」、「ホルモン補充療法ガイドライン2017年度版」を参考に、大きな手術前後の女性ホルモン製剤の使用について説明します。

 

OC・LEPは「手術4週間以内、術後2週間以内および長期間安静状態」では“禁忌”

OC・LEPに含まれているエストロゲンは比較的ホルモンの働き(活性)が強く、血栓症のリスクを高めることが知られています。
また、下肢の手術や術後に下肢の不動を伴う手術では、静脈血栓塞栓症のリスクが上昇します。
そのため、手術予定者では、少なくとも手術4週間前からOC・LEPを中止する必要があります。
再開の時期に関しては、入院による長期間の不動状態も静脈血栓塞栓症のリスク因子であるため、不動状態が解除されるまでは、少なくとも術後2週間以内は、OC・LEPの服用は再開できません

 

ホルモン補充療法(HRT)は「手術の種類によって4~6週間前から、術後2週間または完全に歩行ができるまで中止する」ことを“推奨”

経口のHRTは静脈血栓塞栓症のリスクを高めることが知られています。
ただし、HRTの中止により手術前後の静脈血栓塞栓症リスクが減少するという根拠はなく、膝や股関節の手術における症例研究では、HRTの使用は静脈血栓塞栓症のリスクではない、と報告されています。
これは、HRTで用いられるエストロゲン製剤のホルモン活性が、OC・LEPに含まれているエストロゲン製剤よりも低いことが理由と思われます。そのため、術前術後のHRTは禁忌とはなっていません。
ただし、血栓症のリスクを少しでも低下させるためには、OC・LEPに準じた対応が望ましいと考えられます。「ホルモン補充療法ガイドライン2017年度版」では「手術の種類によって4~6週間前から、術後2週間または完全に歩行ができるまで中止する」ことが推奨されています。

 

緊急手術を受ける場合には、4週間前にホルモン剤の服用を中止することはできないため、積極的に静脈血栓塞栓症を予防することが求められます。
OC・LEP服用中、あるいはHRT施行中の方は、必ず主治医の先生にエストロゲン製剤の治療中である旨、お伝え下さい。