院長コラム

多嚢胞卵巣症候群の診断と管理 ~すぐには妊娠を考えてない方の治療~

多嚢胞卵巣症候群(PCOS)は生殖年齢女性の5~8%に認められ、月経異常、排卵障害がみられます。
PCOSの管理は、今すぐに妊娠を希望されている方か、今はまだ妊娠は希望されていない方かによって、その対応・治療が異なります。
今回は、すぐには妊娠を考えていない方に対する管理を中心にお話致します。

 

 

PCOSの診断基準

日本産婦人科学会の診断基準は以下の1~3の全てを満たす場合をPCOSとしています。

1. 月経異常:無月経、希発月経。無排卵周期症のいずれか

2. 多嚢胞卵巣:超音波検査で両側卵巣に多数の小嚢胞がみられ、少なくとも一方の卵巣で2~9mmの小嚢胞が10個以上存在するもの

3. 血中男性ホルモン(テストステロンなど)高値、またはLH(黄体化ホルモン)基礎値高値かつFSH(卵胞刺激ホルモン)基礎値正常

 

 

診察・検査の流れ

(1) 問診

多くの場合、無月経(3ヵ月以上月経なし)、希発月経(月経周期が39~90日)、無排卵周期症(排卵せず、卵胞ホルモンの変化による出血)など、月経異常を主訴に受診されます。いつ頃から、どのような月経異常を認めたのか、生活の変化や食生活の乱れがないか、急激な体重の減少または増加を認めたか、などを伺います。

 

(2) 内診・経腟超音波検査(または経腹超音波検査)

性交の経験者は内診および経腟超音波検査、性交未経験者は経腹超音波検査で子宮、両側卵巣の状態を観察します。特に、卵巣内の小嚢胞がPCOSの基準に当てはまるか確認します。

 

(3) 血液検査

通常当院では、エストラジオール(E2)、LH、FSH、プロラクチン(PRL)、テストステロン(T)、甲状腺ホルモン関連(
TSH、fT3、fT4)を検査します。
もし、LH>7mIU/mlかつLH/FSH比≧1.0であって、月経異常・多嚢胞卵巣が認められた場合はPCOSと診断します。

 

(4) 基礎体温の計測

ホルモン剤による薬物療法を行なう前に、基礎体温を連日計測して頂きます。二相性で排卵が確認できても、月経から排卵までの期間が長い、排卵遅延の場合があります。
また、通常の月経様出血がみられる方でも、基礎体温は一相性で無排卵周期症の場合もあります。

 

(5) 治療方針

上記の検査結果を検討し、ご本人の妊娠などに対するご希望を伺い、治療方針を立てていきます。

 

 

まだ妊娠を考えてない方の治療法

○ 肥満がある場合(BMI:25.0以上)

PCOSに肥満や耐糖能異常を合併することがあります。約6ヵ月で5~10kgの減量を目指し、低カロリーな食事や有酸素運動を主体とした運動習慣を心掛けて頂きます。
体重減量のみで、排卵が戻り月経が順調になる方もいらっしゃいます。

 

○ 肥満がない場合

PCPSの場合、通常卵胞ホルモン(エストロゲン)は分泌されており、内膜が増殖している状態が続きます。このような場合、月経(または薬剤による消退出血)14日目頃から黄体ホルモン製剤(プロベラまたはデュファストン)を10日間服用し、服薬終了の数日後に消退出血を起こさせるようなホルモン治療(ホルムストローム療法)を行ないます。

当院ではまず3クール施行します。その後1-2か月はホルモン剤を休薬し、自然の排卵・月経の有無を確認します。もし確認できなければ、次はホルムストローム療法を6クール行ないます。

さらに、温経湯、当帰芍薬散といった排卵を促す作用がある漢方薬を上記ホルムストローム療法と併用、あるいは漢方療法単独で行なうこともあります。

 

 

PCOSは女性のどのライフステージにも影響を及ぼす疾患です。もし、月経周期が長くなった場合や3ヵ月以上無月経が続いてしまった場合、妊娠希望の有無に関わらず、是非婦人科を受診して下さい。