院長コラム

器質性疾患のない過多月経の薬物療法

子宮筋腫(特に粘膜下筋腫)や子宮腺筋症など器質性疾患がない場合でも、過多月経をきたすことがあります。今回は、「産婦人科診療ガイドライン 婦人科外来編2020」を参考に、器質性疾患のない過多月経の薬物療法について説明します。

 

  • 止血剤

毛細血管を丈夫にするアドナ錠と止血作用が強いトランサミン錠を併用した処方が第一選択となります。
当院では通常、月経時にアドナ錠30㎎3錠/日およびトランサミン錠250㎎6錠/日を5~7日間処方します。
ただし、出血量がかなり多量の場合は、トランサミン錠250㎎を1回4錠、1日3回の大量服用を2~3日行うことがあります(保険適応外)。

  • 黄体ホルモン放出子宮内システム(LNG-IUS)

子宮内膜が剥がれて流出するのが月経血であるため、過多月経の治療としては子宮内膜の増殖を抑えることが重要です。
女性ホルモンの一種である黄体ホルモンには、子宮内膜増殖を抑制する作用があります。LNG-IUSは、子宮内膜に対して限局的、持続的に高濃度の黄体ホルモンを分泌することができるプラスチック製の器材で、過多月経に保険適応があります。また、一度子宮内に挿入すると、5年間は効果が持続します。
尚、受精卵の子宮内膜への着床を阻害するため、妊娠希望の方には使用出ません。

  • 消炎鎮痛薬:非ステロイド系抗炎症薬(NSAIDs)

月経困難症で使用するNSAIDsには、痛み物質であるプロスタグランジン(PG)の合成を抑制する働きがあります。
また、PGにはいくつもの種類があり、血管拡張作用を持つものや、血小板凝集を抑制するもの、つまり血液を凝固させない作用を持つものなどがあります。
そのため、NSAIDsを服用すると、PG合成が抑制され、血管が収縮し、血液が凝固することで経血量の減少が期待できます。
ただし、過多月経だけでは保険適応にはならず、経血減少効果もあまり高くないため、過多月経と月経困難症を認める方に対し、他剤と併用して服用することが現実的であると思われます。

  • 女性ホルモン製剤

月経困難症と過多月経が見られる方に対し、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)を使用することは大変有用です。
ただし、子宮内膜の増殖を抑制するだけでなく、排卵も抑制するため、LNG-IUSと同様、避妊となってしまうことに注意が必要です。
また、40歳以上の方、喫煙者など、血栓症のリスクのためLEPが使用しづらい方には、黄体ホルモン単剤(プロベラ錠など)の内服薬を周期的に用いる方法もあります(過多月経に対して保険適応)。

 

他にも漢方薬(当帰芍薬散、温清飲など)を用いることがあり、妊娠を希望する方を中心に処方しています。
ただし、これらの薬物療法を行ったにもかかわらず、過多月経が改善しない場合は、凝固異常など血液疾患が隠れていることがあります。
その際は、高次施設の血液内科に紹介する旨、ご了承下さい。