院長コラム

主にペニシリン系抗生剤を用いる産婦人科疾患

1941年(昭和16年)2月12日、イギリスの大学病院が世界で初めてペニシリンの臨床実験に成功したそうです。それを記念して、2月12日が「ペニシリンの日」と制定されました。
現在までに、数多くの種類の抗生剤が開発されていますが、すべてペニシリンから始まっています。
今回は、ペニシリン系抗生剤が第一選択となっている産婦人科領域の疾患のうち、「梅毒」と「新生児B群溶連菌感染症」について説明します。

 

 

梅毒の治療に用いる「サワシリン錠」「ビクシリンカプセル」

梅毒は梅毒トレポネーマという病原体によって引き起こされる感染症で、主に性行為によって感染します。我が国での患者数は2013年以降増加し、最近では女性の患者数が急増しています。
臨床症状により、第1期から第4期に分類されますが、症状が認められないケースもあります。第1期は梅毒トレポネーマが感染局所とその所属リンパ節に留まっている段階で、感染後約3週間で無痛性の硬結が認められ、その後潰瘍を形成し、無痛性のリンパ節腫脹がみられます。第2期は、梅毒トレポネーマが全身に散布される時期で、体幹、顔面、四肢などに淡紅色斑や丘疹など多彩な症状が、3ヵ月~3年にわたり混在して出現します。

治療は合成経口ペニシリンである「サワシリン錠250mg」1回500mg(2錠)1日3回(合計6錠/日)、あるいは「ビクシリンカプセル250mg」1回500mg(2カプセル)1日4回(合計8カプセル/日)の内服が、第一選択として推奨されています。使用期間は、第1期で2~4週間、第2期で4~8週間、3期以降では8~12週間とされています。

尚、ペニシリン系にアレルギーがある方には、「ミノマイシン錠」や「アセチルスピラノマイシン錠」を用います。

 

 

新生児B群溶連菌(GBS)感染症の予防に用いる「ビクシリン注」

GBSはありふれた細菌で、あまり病原性は強くないため、通常は腟内に存在していても治療する必要はありません。ただし、経腟分娩中の妊婦さんや破水した妊婦さんの腟内にGBSが存在していた場合、生まれてくる赤ちゃんに感染し、重症化する危険性があります。そこで、妊娠35週頃に妊婦さんの腟内および肛門内の細菌検査を行なって、GBS保菌の有無を確認します。

培養検査でGBS陽性の場合や妊娠中の尿培養でGBSが検出された場合など、新生児GBS感染症のリスクがある場合は、母体に「ビクシリン注」を点滴投与します。具体的には、陣痛が発来または破水が確認できた時点で、「ビクシリン注」2gを点滴投与し、その後4時間ごとに「ビクシリン注」1g点滴投与を分娩終了まで続けます。

尚、ペニシリン系にアレルギーがある妊婦さんには「セファメジン注」を用います。

 

 

病原体によってはペニシリンが無効な場合も少なくありませんが、それでもペニシリン系抗生剤は非常に重要であることに違いありません。
80年前の先達への敬意を忘れず、患者さんや妊婦さんの感染症治療として、ペニシリンをはじめとする抗生剤を適切に使用していくことが、我々医療従事者に課せられた責務と考えています。