院長コラム

ホルモン補充療法をより安全に施行するポイント

更年期障害や骨粗しょう症の治療法としてホルモン補充療法(HRT)は有用ですが、その施行にあたってはリスクや副効用を考える必要があります。
今回、HRTをより安全に施行するためのポイントについて、「ホルモン補充療法ガイドライン2017年度版」、先日開催された「東京産婦人科医会臨床研究会」の講演などを参考に説明します。

 

・HRTの開始は閉経後できるだけ速やかに

閉経後10年以上経過、または60歳以上でHRTを開始した場合、心筋梗塞などの心疾患の発症リスクが増加する、との報告があります。
可能であれば閉経後早期、できれば閉経後10年以内、あるいは50歳代までに始められることをお勧めします。

 

・萎縮性腟症に対する経口エストリオール製剤の長期服用にも黄体ホルモン製剤の併用を

40~50代のHRTに用いられるエストロゲン製剤は「エストラジオール(E2)」が主成分であり、子宮を有している方にE2製剤のみを使用した場合、子宮内膜組織が増殖し、子宮体がんのリスクが高くなることが知られています。
そのため、子宮を有している方には、子宮内膜組織の増殖を抑制する作用がある黄体ホルモン製剤を併用し、子宮体がんのリスクを低下させる必要があります。
一方、60歳以上の萎縮性腟症に対してもHRTを行うことがありますが、E2製剤ではなく、主に「エストリオール(E3)」が主成分の経口製剤を使用します。E3製剤はE2製剤に比べてエストロゲンの作用は弱く、子宮内膜組織に対する作用は少ないと考えられています。
それでも、経口E3製剤を数か月以上使用する場合は、できるだけ子宮体がんリスクを低下させるため、原則として黄体ホルモン製剤の併用が勧められています。

 

・心血管系疾患に対する予防効果を期待するならHRTの5年以上の継続を

HRTに使用する黄体ホルモン製剤の種類によっては、5年以上の服用で乳がんのリスクが若干増加することが知られています。ただし、アルコール摂取・肥満・喫煙といった生活習慣関連因子によるリスク上昇と同等かそれ以下であり、天然型の黄体ホルモン製剤を使用するならば乳がんリスクを上昇させることはありません。
むしろ、5年以上HRTを継続することで、心血管系疾患のリスクが低下するとの報告があります。ガイドラインでも「HRTの継続を制限する一律の年齢や投与期間はない」とされており、ご希望があれば長期の施行が可能です。

 

HRTをより安全に行うためには、定期的な健診が必要になります。
当院では、定期的に子宮内膜細胞診・組織診や超音波検査を行っています。
また、年に一回は乳がん検査(マンモグラフィ・超音波検査)を受けるようにしましょう。