院長コラム

ホルモン補充療法のメリット

ホルモン補充療法(HRT)は、女性ホルモンであるエストロゲンの欠乏に伴う更年期障害や閉経後骨粗しょう症などに対して用いられる治療法です。
同時に、エストロゲン欠乏によっておこる将来の疾患リスクを低下させることも期待できます。
今回は、このようなHRTの“副効用”について、「日本女性医学学会ニューズレター2022年5月」「ホルモン補充療法ガイドライン2017年度版」などを参考に説明します。

 

骨粗しょう症・骨折予防

骨折により寝たきりになると、生活の質の低下だけなく、余命が短くなることが知られています。そのため、骨粗しょう症の治療はもちろん、その予防も大変重要です。
HRTの骨密度増加効果はエストロゲンの種類や投与経路の違いによらず同等といわれていますが、エストロゲンの量が多い薬剤の方が効果は高いといわれています。
また、骨折予防効果自体も、通常量(ジュリナ錠0.5㎎2錠/日など)では認められるものの、低用量(ジュリナ錠0.5㎎1錠/日など)では明らかでありません。
そのため、骨密度が低下傾向の方は、通常量のエストロゲン製剤を用いたHRTがいいでしょう。

 

動脈硬化性疾患の予防

血管の内皮細胞が障害を受けて機能が低下すると、動脈硬化になりやすくなり、心疾患や脳血管障害のリスクが高まります。
エストロゲンには血管内皮細胞を守る働きがあるため、閉経や両側卵巣摘出後に血中エストロゲン濃度が低下すると、動脈硬化のリスクが高まることになります。
したがって、HRTでエストロゲンを補うことにより、血管内皮細胞の機能を改善させ、動脈硬化のリスクを下げることが期待できます。
ただし、閉経後10年以上経過してからHRTを開始した方、あるいは60歳以上になって新規にHRTを開始した方は、動脈硬化予防効果は見られず、むしろ心筋梗塞などのリスクの上昇が報告されていますので、HRT開始時期に注意する必要があります。

 

アルツハイマー病のリスク軽減

エストロゲンは中枢神経系に対して保護作用を持つことが知られており、エストロゲン服用者ではアルツハイマー病の発症が低く、その発症を遅らせる可能性があります。
残念ながら、アルツハイマー病になられた方がHRTを行ったとしても認知機能の改善は見られませんが、まだアルツハイマーになっていない方に対しては、HRTによってその発症リスクを軽減させることは期待できます。

 

大腸がん・胃がん・食道がんのリスク軽減

がんの発生には、体質や生活習慣など様々な要因が関係していますが、HRTは大腸がん・胃がん・食道がんといった消化管のがんのリスクを低下させることが知られています。
特に、大腸がんに関しては、現在HRTを行っている方だけでなく、以前HRTを行っていた方もリスクの低下が期待できます。

 

この他にも、HRTにて抑うつ気分や肌のトラブルが改善したとの報告があります。
ただし、以上の副効用を目的としたHRTは推奨されていません。
更年期障害や骨粗しょう症の治療としてHRTを行うかどうか、あるいはいつまで続けるのか、などを検討する際の参考になればと思います。