院長コラム

ホルモン補充療法と乳がんについて

閉経後女性に用いるホルモン補充療法(HRT)は、更年期障害の治療、閉経後骨粗しょう症の予防・治療だけでなく、中高年女性の生活の質を向上させることも期待できます。
ただし、乳がんとの関連を心配される方もいらっしゃると思います。
今回はHRTと乳がんについて、「ホルモン補充療法ガイドライン(2017年版)」、「日本産婦人科乳腺医学会」教育講演(WEB開催)の内容を参考にお伝え致します。

 

日本人対象の研究ではHRTにより乳がんリスクは上がらず

欧米での大規模研究では、HRTを施行していない方の乳がんリスクを1とした場合、5年以上HRTを施行している方のリスクは1.26となり、やや増加すると報告されています。
ただし、日本人を対象とした研究では、HRTを施行していない方と比べて、HRTを施行した方のリスクの方がむしろ低くなっており、少なくとも明らかにリスクを高めることはないと報告されています。
また、HRTを行う際、子宮を有する方にはエストロゲン製剤に黄体ホルモン製剤を併用しますが、黄体ホルモンの種類によって乳がんリスクが変わることが知られています。子宮を摘出された方に対しては黄体ホルモンを併用せず、エストロゲン製剤のみを使用しますが、この場合乳がんリスクは上昇しないといわれています。
ちなみに、飲酒も乳がんのリスク因子として知られています。日本人場合、週に150g(一日ビール大瓶1本)以上のアルコール摂取する方は、それ以下の方に比べて1.75倍乳がんリスクが高まります。つまり、飲酒にはHRT以上の乳がんリスクがあるということです。
ある程度お酒を飲まれる方は、HRTによる乳がんリスクをご心配されるより、酒量を控えることをお勧めします。

 

ただしHRT施行後・施行中・施行後の乳がん検査は必須

乳がんリスクに及ぼすHRTの影響は低いものの、すでにHRT施行時に小さな乳がんが発生している場合は、女性ホルモンの影響で増大させてしまう可能性があります。
そのため、ガイドラインでは、HRT施行前、施行中は1~2年ごと、施行後5年までは1~2年ごとのマンモグラフィーや超音波検査などによる乳がん検査が推奨されています。
当院では、2年に一回の世田谷区乳がん検診、および当院での乳房超音波検査などを組み合わせて、乳がんの早期発見に努めております。
その上で、月に一回はご自身でも乳房のしこりや違和感、乳頭血性分泌の有無をチェックして頂くよう、お話しています。

 

HRTの乳がんリスクを過度に心配し、HRTの恩恵を受けられないのは非常にもったいないと思います。
食生活、運動習慣、喫煙・飲酒などの生活習慣を見直し、定期的に乳がん検査を受けて頂くことで、乳がんに対する不安感が減ると考えられます。
もし、乳房の自己チェックで気になることがありましたら、かかりつけ医またはブレストクリニックを受診して下さい。