院長コラム

「安全な飲酒量」なんてありません

医学情報誌「Medical Tribune vol.51」に世界疾患負担研究の調査報告の記事が載っていました。それによると、「健康リスクを最小限に抑えるための安全な飲酒量の目安が存在する」という認識は神話に過ぎない、とのことです。
今回は、飲酒について考えてみました。

 

 

「アルコール関連死」とは

飲酒が関連する健康被害には、心血管疾患(虚血性心疾患、脳卒中など)、がん(大腸、肝臓、食道、乳房など)、アルコール性肝疾患、糖尿病、飲酒による暴力・虐待、溺死、酒気帯び運転による事故などがあります。さらに、結核、エイズ、肺炎などの感染症の罹患リスクも高まると言われています。

このような飲酒関連健康被害の関与によって生じる死亡を「アルコール関連死」といいます。

 

 

男女の特徴について

世界のアルコール関連死に関する男女差の報告では、男女によってその特徴に、かなりの違いがあるようです。

疾患全体に対して飲酒が影響与えた割合は、女性が1.6%であるのに対し、男性では6.0%とかなり高く、特に15~49歳男性における死亡の12%は飲酒が関連しているとのことです。ちなみに同年代の女性の場合は、3.8%にとどまっています。

しかし、50歳以上のアルコール関連死に占めるがんの割合は、男性で19%であるのに対し、女性では27%となっています。つまり、「中高年女性は飲酒によりがんになりやすい」といえるかも知れません。

 

 

全健康リスクを最小限にするには“アルコール摂取量0”

各疾患などに対するアルコールのリスク評価では、虚血性心疾患のみが一日0.8ドリンク(1ドリンク=純アルコール10g)でしたが、全健康リスクを最小限にするアルコール摂取量は1日0ドリンク、という結果でした。

つまり、「お酒はたばこと違って、少量であればむしろ体にいい」といった事実はない、ということになります。今後は、たばこと同様、世界的に飲酒の規制が強くなる可能性があります。

 

 

妊娠と飲酒

もちろん、妊婦さんは飲酒してはいけません。胎児の先天異常、脳萎縮、胎児発育不全など胎児への悪影響はもちろん、妊娠中のうつ症状の悪化、乳児に対する虐待感情を持つ可能性なども指摘されています。

それでも妊娠中に飲酒した経験がある妊婦さんの割合は8~9%という報告もあり、妊娠中のアルコール摂取の危険性を国としても啓発する必要があるのでは、と思います。

 

 

最近、お酒にまつわる不祥事が世間を騒がせています。お酒に対して比較的寛大なわが国でも、酔っ払いが与える周囲への被害は決して少なくありません(飲酒運転、暴力・DV、セクハラなど)。
今回お伝えしたように、自身の健康の事を考えても、お酒を飲まないに越したことはありません。
それでも飲みたい時には、アルコールが自他に及ぼす影響を十分に理解した上で、他人に迷惑をかけず、ほどほどすること、つまり“大人の飲み方・楽しみ方”に心がけることが大切ではないでしょうか。