院長コラム

「かぜ症候群」対策 ~抗生剤の適性使用の観点から~

現在、薬剤耐性菌(抗生剤が効かない菌)の増加が世界的に問題になっており、その原因の一つが抗生剤の不適切な使用であるといわれています。そのため、薬剤耐性の対策を取る事が各国に求められ、日本でも厚生労働省を中心にアクションプランがたてられました。医療関係者への啓発の一つに、「『適切な薬剤』を『適切な場合に限り』、『適切な量と期間』使用すること」の徹底があります。
今回は、「かぜ症候群」に対する対策を、「抗微生物薬適性使用の手引き 第一版 ダイジェスト版」(厚生労働省)、「ガイドライン外来診療2018」(日経メディカル開発)などを参考にお伝え致します。

 

 

「かぜ症候群」の種類

かぜ症候群は急性気道感染症とも呼ばれ、鼻汁・鼻閉(鼻症状)、咽頭痛(咽頭症状)、咳・痰(下気道症状)の3症状の出現の仕方で「感冒」、「急性鼻副鼻腔炎」、「急性咽頭炎」、「急性気管支炎」の4つの病型に分類されます。

「感冒」は発熱の有無は問わず、鼻汁・鼻閉、咽頭痛、咳・痰の3つの症状が同時に、同程度みられる病態を言います。通常抗生物質は使用しません。

鼻汁・鼻閉が主要症状で、咽頭痛、咳・痰がほとんどみられない病態を「急性鼻副鼻腔炎」といい、軽症例では抗生剤は使用しませんが、中等症以上の場合は使用が考慮されます。

咽頭痛が主要症状で鼻汁・鼻閉、咳・痰がほとんどみられない病態は「急性咽頭炎」、咳・痰が主要症状で鼻汁・鼻閉、咽頭痛がみられない病態を「急性気管支炎」(3週間以内)といいます。これらも症状が軽度であれば抗生剤は必要ありませんが、A群溶連菌感染など細菌感染が確認された場合は抗生剤を使用することがあります。

 

 

管理方法

かぜ症候群は、そのほとんどがウイルス感染であり、抗生剤は無効です。多くの場合、3~10日ほどで自然治癒するため、安静、保温および保湿、水分補給、栄養補給に心がけることが基本になります。

発熱、咳、鼻汁といった症状は、ウイルスに対する生体防御反応であるため、原則として日常生活に支障をきたす場合にのみ薬物療法を行います。

「ガイドライン外来診療2018」には、発熱に対してはカロナール錠(300mg)1回1錠屯服、咽頭痛に対してはトランサミンカプセル(250mg)1回1カプセル 1日3回食後、咳に対してはメジコン錠(15mg)1回1~2錠 1日3回食後、鼻汁・喀痰に対してムコダイン錠(500mg)1回1錠 1日3回食後が処方例として記載されており、当院でもこれらの薬剤を中心に、症状に応じて量・期間を検討して処方しています。

上記以外では、かぜの引き始めに葛根湯を3日間、鼻汁・くしゃみが強いときには小青竜湯、鼻閉感がみられる場合には葛根湯加川キュウ辛夷、咳・痰を認めるときは麦門冬湯など、症状に合わせて漢方療法を行うことも少なくありません。

 

 

抗生剤を使用する場合

かぜ症候群であれば、通常1週間程度で症状は軽快します。したがって、1週間経過しても軽快しない場合や、症状が悪化する場合には細菌感染の合併の可能性があります。

一般的な細菌感染を合併したときは、ペニシリン系のサワシリンカプセル(250mg)1回1カプセル 1日3回食後、マイコプラズマや百日咳の場合はマクロライド系のジスロマック錠(250mg)1回2錠 1日1回食後 3日間の処方例が「ガイドライン外来診療2018」には記載されており、当院でもこれに準じて処方しています。

 

 

以上の対策は、かぜ症候群の妊婦さんにもほぼ同様の対応をします。ただし、妊婦さんは妊娠していない女性と比べて免疫力が低下しており、また後期になると増大子宮による胸腔圧迫のため、呼吸器感染症が重症化しやすい傾向にあります。
そのため当院では、かぜの症状があらわれた妊婦さんに対しては、自宅安静など休息を徹底し、漢方薬を中心とした薬物療法を比較的早期に開始しています。また、症状の改善がみられない場合や悪化する場合は、早めに内科・呼吸器科の先生を受診して頂く様にお伝えしています。
尚、ペニシリン系、マクロライド系、セフェム系といった抗生剤は胎児にほとんど影響はありませんので、妊娠中でも必要な場合は適切に使用致します。