院長コラム

緊急事態宣言発令中は骨盤内うっ血に注意

正常の状態では血流はスムーズに流れますが、何らかの原因で血流が滞ると、静脈うっ滞(漢方医学的には「お血」)が生じ、骨盤内の静脈にうっ滞が認めれば、骨盤内うっ血症候群として月経痛や慢性骨盤痛などの症状をきたすことがあります。特に、解剖学的に左側の卵巣静脈や卵巣・卵管周辺の静脈がうっ滞しやすく、左下腹部痛を認めることが多いといわれています。
骨盤内うっ血の要因として、ストレス・過食・睡眠不足・運動不足などの生活習慣が指摘されています。このような不健康な生活は、どなたでも緊急事態宣言発令中に陥りがちですので、緊急事態が解除されるまでは、いつも以上に注意する必要があります。
今回は、「女性診療で使えるヌーベル漢方処方ノート」(武田卓著 メディカ出版)を参考に、骨盤内うっ血の改善が期待できる漢方薬をご紹介します。

 

 

○ 当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン)

やせている方で、色白、冷え、虚弱体質、頭痛、めまい、肩こり、浮腫などが見られた場合は、「当帰芍薬散」が有効といわれています。
子宮筋の収縮が強い月経痛、肩周囲の筋肉の緊張が強い肩こり、胃腸の筋肉の収縮が強い胃腸の蠕動痛が見られる場合は、筋肉の緊張を和らげる作用を持つ「芍薬甘草湯」を併用することがあります。

 

 

加味逍遥散(カミショウヨウサン)

比較的虚弱で疲労しやすく、精神不安、不眠、イライラなどの精神症状が強く、症状が次々に移り変わるような方には「加味逍遥散」が適しています。右上腹部のつかえ感や圧痛がみられる場合に有効ですが、弱い下剤作用があるため、普段から下痢傾向がある方には注意が必要です。
尚、イライラが強い方には作用の増強を期待して「抑肝散」を併用することもあります。

 

 

桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン)

体格はしっかりしており、下腹部に抵抗・圧痛を認める方には「桂枝茯苓丸」が第一選択です。冷えのぼせや肩こりなどの身体症状がメインで、精神症状は比較的軽度の方にお勧めです。

 

 

○ 桃核承気湯(トウカクジョウキトウ)

「桃核承気湯」は「桂枝茯苓丸」の適応者よりもしっかりした体格の方に用います。特に、不眠・不安・めまい・手足の冷えなど精神神経症状が強く、左下腹部の抵抗・圧痛を認める方に有効です。
ただし、下剤作用が強いため、普段から便秘傾向にない方が服用すると、下痢となってしまうことがあるため注意が必要です。

 

 

緊急事態宣言の解除が延期され、今後もストレスの多い生活が続くと思われます。
このような状況下で心身の健康を守るために、バランスのとれた食生活・良質な睡眠・“3密”を避けた屋外や屋内での運動を心がけ、ストレスがたまらない様に今一度生活を見直しましょう。
それでも、骨盤内うっ血の症状がみられた場合は、漢方薬がお役に立つかも知れませんので、是非ご相談下さい。