院長コラム
ホルモン補充療法が有用な更年期以降の女性の症状
女性ホルモンの一つであるエストロゲンは、閉経期近くになると揺らぎながら低下し、閉経期以降は低値のまま推移していきます。
そのようなエストロゲンの変動により、更年期障害、骨粗しょう症などの病気がみられることがあるため、閉経後にエストロゲンを補うホルモン補充療法(HRT)を行っている方は少なくありません。
今回は、「ホルモン補充療法ガイドライン 2025年度版」を参考に、更年期以降の女性にみられるHRTが有用な症状について、情報共有したいと思います。
A+ランク:有用性がきわめて高い
「血管運動神経症状」(ほてり、発汗など)
「萎縮性腟炎・性交痛の治療」
「骨粗しょう症の予防・治療」
更年期障害といえば「ほてり・発汗」とイメージされる方も多いと思います。これらは血管運動神経症状と呼ばれ、HRTが特に有用と言われています。
萎縮性膣症や膣の乾燥感、性交痛などは、閉経後数年経過してから自覚される方も多く、全身的なHRTだけでなく、エストロゲン膣錠を膣内に挿入するといった局所投与する場合もあります。
また、エストロゲンの血中濃度の低下に伴い、骨は溶けていき(骨吸収)、骨密度が低下します。放置すれば閉経後骨粗しょう症を引き起こすため、骨吸収を抑制する作用のあるHRTは、治療にも予防にも非常に有用とされています。
Aランク:有用性が高い
「更年期の抑うつ症状」
「脂質異常症の治療」
「皮膚萎縮の予防」
更年期の“うつ病”に対する効果は不明瞭ですが、“抑うつ気分・症状”には有効とされています。
経口エストロゲン製剤(ジュリナ錠1.0㎎)はLDLコレステロール(悪玉)を低下させるとの報告や、経皮エストロゲン製剤(エストラーナテープ、ディビゲル、ル・エストロジェル)は、LDLコレステロールの悪玉の度合いを弱くするとの報告があります。
Bランク:有用性がある
「動脈硬化の予防」
「アルツハイマー病の予防」
「血管運動神経症状・抑うつ以外の更年期症状」
エストロゲン製剤には血管の弾力性を改善する作用が知られていますが、閉経後10年以上経過して始めたHRTでは動脈硬化の予防効果は低下するようです。
また、閉経して早期に開始するHRTはアルツハイマー病の発症を予防する可能性はあるものの、臨床データは少ないため、認知機能の維持や認知症の予防のみを目的の場合には、HRTは勧められません。
更年期は、その後の人生の基礎になる大事な時期です。
しかし、エストロゲンの低下が人生の質を大きく低下させる可能性があります。
副作用に注意は必要ですが、上記の症状が気になる方は、現在および将来の健康のためHRTをご検討下さい。