院長コラム

アンガーマネージメントと婦人科診療

6月6日は、「ム(6)カム(6)カ」の語呂合わせから、「アンガーマネージメント」の日に制定されているそうです。アンガーマネエイジメントとは、怒りの感情と上手く付き合う方法の事で、「怒りの感情が出たら6秒数える」「ゆっくり深呼吸する」「怒りの感情を数値化する」など、様々な手法が提唱されています。
実は女性の場合、「いらいらする」「怒りっぽくなる(易怒性)」などの感情は月経前や更年期にみられることが多く、女性ホルモンとの関連が指摘されています。
今回は、婦人科診療としてのアンガーマネーメントについて説明します。

 

月経前症候群と女性ホルモン製剤

月経が始まる3~10日前頃から、様々な精神症状や身体症状が現れることがあります。これを月経前症候群(PMS)といい、いらいら感、怒りやすい、などはその典型的な症状です。
PMSの原因は不明ですが、排卵後に産生される黄体ホルモンの影響や、月経前の血中エストロゲン・黄体ホルモン濃度の急激な減少などが要因として指摘されています。
PMSの治療法として確立されたものはありませんが、排卵を抑え、月経の回数を減らし、血中の女性ホルモン濃度の急激な低下を避けることが有用と考えられています。
月経困難症の治療薬である低用量エストロゲン・プロゲスチン製剤(LEP:経口避妊薬と同じ成分)には排卵抑制作用があるため、長期間持続服用によってPMSの改善が期待できます。
ただし、LEPには様々な種類があり、中には男性ホルモン様作用を有する製剤がありますが、男性ホルモン様作用により、かえって易怒性が高まる可能性も否定できません。
そこで当院では、月経困難症の治療が必要な方で、PMSとして「いらいら感」や「易怒性」を認める場合には、男性ホルモン様作用を認めず、長期の連続投与が可能な「ヤーズフレックス配合錠」を第一選択として処方しています。

 

更年期障害に対するホルモン補充療法

血中エストロゲン濃度が低下すると、のぼせ・発汗などの血管運動神経症状、抑うつ・不安感などの精神症状を認める場合があります。
これらの症状を更年期症状といい、更年期症状のため生活に支障をきたす場合を更年期障害といいます。
更年期障害として「いらいら感」や「易怒性」を認める方は多く、エストロゲンを補うホルモン補充療法(HRT)でこれらの症状が軽減するケースもあります。

 

幅広く使用できる漢方薬

ホルモン治療で改善しない「いらいら感」や「易怒性」に対しては、漢方薬が有効であるケースも少なくありません。
いらいらを和らげる代表的な漢方薬は「抑肝散(ヨクカンサン)」で、当院でも多くの方に処方しています。
慢性的に「いらいら」されている方で、胃腸があまり強くない方には「抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ)」を処方しています。
その他、「四逆散(シギャクサン)」「柴胡加竜骨牡蠣湯(サイコカリュウコツボレイトウ)」「加味帰脾湯(カミキヒトウ)」「黄連解毒湯(オウレンゲドクトウ)」なども「いらいら感」や「易怒性」に有効のようです。

 

仕事や勉強、子育てで「いらいら」する方も多いのではないでしょうか?
もし、月経と関連している「いらいら」や「怒り」であるならば、日頃行っているアンガーマネージメントに「婦人科を受診してみる」を加えてみて下さい。
女性ホルモン製剤や漢方薬がお役に立つかも知れません。