院長コラム

産前産後の貧血にご注意を

妊娠中は、血液が生理的に薄まる事や、臍帯を通じて赤ちゃんに鉄を与える必要がある事から、鉄欠乏性貧血になりやすいことが知られています。
もし、鉄欠乏性貧血が進行してしまうと、早産や胎児の発育不全、分娩時の大量出血、産後には抑うつの悪化や乳汁の分泌低下などのリスクが高まってしまいます。
今回は、産前産後の貧血について情報共有したいと思います。

妊娠中の鉄欠乏性貧血の基準
妊娠していない成人女性の場合、ヘモグロビン(Hb:血色素)値12g/dl未満が貧血とされています。
妊婦さんは生理的に貧血になる傾向にあるため、世界の多くの国では、妊娠初期と後期はHb値が11.0g/dl未満、妊娠中期は10.5 g/dl未満を貧血と診断しているようです。
実は、わが国では妊婦さんの治療開始基準となる具体的なHb値は示されていませんが、当院では、妊娠9週頃、24週頃、30週頃に採血をし、Hb値が11.0g/dl未満の方に鉄剤の内服薬(リオナ錠など)を処方しています。

妊娠中の鉄欠乏性貧血の問題点
最も大きな問題点は、貧血が強いと分娩時出血量を増やしてしまう事です。ある報告では、自然経腟分娩であればHb:10.0g/dl未満、帝王切開では8g/dl未満で、母体への輸血のリスクが上昇するとのことです。
また、妊婦さんの貧血は早産(妊娠22週以降、37週未満の分娩)のリスクを上げるとも言われています。ただし、鉄剤の連日投与が早産の頻度を低下させる傾向を認めたとする報告がある一方、あまり効果がなかったとする報告もあり、早産予防に関する鉄剤摂取の有用性については不明な点もあるようです。
一方、貧血がリスクの一つである低出生時体重児(出生時体重が2500g未満)については、鉄剤の摂取により低出生体重児の頻度が減少するといった報告が多いようです。

産後の貧血にも注意
妊娠中からの貧血状態や分娩時出血などにより、お産後も鉄欠乏性貧血となっている方は少なくありません。
貧血のある授乳婦さんは乳汁分泌不良になる傾向があり、母乳育児を希望していても断念せざるを得ないケースもあるため、授乳中も貧血でないか確認することが望ましいかも知れません。
また、鉄欠乏は抑うつ傾向になることが知られています。分娩後は女性ホルモンの急激な低下や著しい環境の変化、育児ストレスなどで抑うつ傾向になりやすい状態です。そこに貧血が加われば、産後うつになってしまうリスクが上昇します。
ある報告では、12.0g/dl以下の女性は、12.0g/dlよりも高い女性に比べて、産後うつ状態になるリスクが高いとのことです。
当院では、一般成人女性と同様、産後はHb12.0g/dl未満貧血の基準値として、鉄剤投与などの治療を検討します。

鉄欠乏性貧血は不妊症のリスク因子の一つでもあります。
妊娠を考える時期になったら、葉酸はもちろん、鉄も積極的に食事やサプリメントで摂取することをお勧めします。
しかし、もっと重要なことは、思春期からバランスのとれた食生活を心掛け、過多月経となったら気軽に婦人科クリニックを受診して頂く事であると考えています。